全国的に記録的猛暑の、暑い暑いこの夏。今年も甲子園で、高校球児たちの熱い熱い闘いが繰り広げられました。プロ野球には興味がないけれど、高校球児たちの闘いには心を打たれるという方もいるでしょう。最終回ツーアウトの場面からも、どんなドラマが展開するか分からない野球。そして、数々のドラマは決して偶然の産物ではなく、球児たちが積み重ねた地道な練習から生まれています。

ここに、まだ試合に出たことのない1人の少年がいます。少年のひたむきな気持ちと、意外な応援団。野球少年、野球少年を見守る立場の方々、野球好きな方々だけでなく、何かをひたむきに頑張るすべての方におすすめしたい絵本『海をかっとばせ』をご紹介します。

「夏の大会までには試合に出たい!」。今年から野球チームに入ったワタルは、まだベンチ専門です。「ピンチヒッターでもいいから」。思いを叶えるべく、1人で秘密の特訓をすることにしました。毎朝海辺までランニングをして、浜辺で素振りを100回することを心に決めたのです。

風の強い朝、ワタルは怖い気持ちを抑えて浜辺に立ちました。寄せてくる波が一番高く盛り上がったタイミングで、力いっぱい、気合を込めてバットを振ります。あまりに渾身の力を込め続けたせいか、50回を過ぎたあたりから、ワタルの周りの世界が回り出しました……。

押し寄せたしょっぱい波しぶきにワタルがしりもちをついたとたん、不思議な少年が目の前に現れ、ワタルの練習の協力を買って出ます。その少年が波の向こうから投げる球を狙い、ワタルは何度も何度もバットを振ります。なんとボールと一緒に、
「がんばれ がんばれ!」
「かっとばせ かっとばせ!」
「きをぬくな!」
「たまをよくみろ!」
なんていう檄までついてくるという大サービスです。

海に向かってホームラン

海に向かってホームラン

ワタルを応援するのは、不思議な少年だけではありませんでした。波が姿を変えたのでしょうか、一帯がグラウンドと化し、たくさんの観客がワタルに声援を送ります。打ったボールは白い鳥になって空に吸い込まれていくのです。とうとう逆転ホームランを打ったワタルは、晴れ晴れとした気持ちでダイアモンドを駆け抜けます。


また絶対来ようと誓い、叫んだワタルの肩を、ぽんと叩いた存在があります。早朝の海で黙々と練習に励むワタルを、力強く温かく励ましたのが誰なのか、ぜひ、思いを巡らせてみてください。

我が家にも、2人の野球少年がいます。毎朝早朝からチームの朝練に出かけ、帰宅と同時に朝食。学校から帰るとまた、練習に向かいます。時に弱音を吐きながらも足が練習に向かうのは、一緒に乗り越える仲間、厳しく温かい指導者の存在があってのこと。そしてギャラリーの、お母さんたち、お父さんたちもいます。海を目の前にバットを振り続けるたった1人のワタルの前にも、そんな存在が無意識のうちに登場したのではないかと思いたくなりました。

早朝の練習に出かけたワタルは孤独でした。でも、一人ぼっちではありませんでした。考えてみれば、大人も子どもも、完全に孤独な状態では頑張ることが難しいものです。励ましてくれるのは、家族だったり仲間だったり大切な人だったり、そして、毎日当たり前のように見ている、空や街並みや、海や山なのかもしれません。

頑張っている人を見ている存在、応援している存在が必ずある。夢を持つ子どもたちすべてにそう感じてほしいと願います。そして、大人も、そんな気持ちを忘れることなく、日常の景色を、ふと足を止めて見ることができたらいいですね。


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