おとぎ話に風刺を効かせた、猫の冒険ミュージカル『人間になりたがった猫』

『人間になった猫』撮影:阿部章仁

『人間になった猫』撮影:阿部章仁

上演時間=約2時間10分(休憩込)

〈こんなファミリーにお勧め!〉
  • 子供が最近「友達とうまくいかない」等、人間関係に悩みだした。(←「人は支え合ってこそ生きてゆくもの」という人間社会の根本を、猫の視点を通すことで素直に見つめ直させてくれます!)
  • 勧善懲悪が好きだけど、悪をとことん追い詰める話はあまり子供に見せたくない。(←悪役は最後に改心。安心して観ていられます!)
  • 帰り道に親子で口ずさめるようなナンバーのある作品がいい。(←「人は~みんな誰でも~」で始まる主題歌『すてきな友達』は、親しみやすく、すぐ覚えてしまえるメロディです!)
  • スペクタクルも見たい!(←後半のクライマックスは火事のシーン。「見どころ」で詳述しますが、刻々と建物が燃え落ちる中での救出シーンには、大人も子供もはらはらどきどき!)

〈何歳から大丈夫?〉
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

物語には「利権」「賄賂」など、「大人の事情」的要素も登場し、社会生活に慣れていない幼児には難しく感じられるかもしれませんが、歌やダンスは3歳ごろから楽しめるでしょう。逆に小学生以上なら、「大人の事情」の部分ゆえに物語がリアルに感じられ、余計に興味が増すかもしれません。

〈どんなミュージカル?〉
アメリカの作家、ロイド・アレクサンダーによる同名の児童文学を舞台化した、猫の冒険物語。勧善懲悪ストーリーの中に人間社会への風刺を効かせた、ひねりのある内容ですが、鈴木邦彦さんの親しみやすいメロディ、森英恵さんの楽しくカラフルな衣装の魅力もあいまって、劇団四季の30以上に及ぶファミリーミュージカルの中でも、公演回数1700回以上という最多記録を持つ名作です。

〈物語〉
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

森にすむ魔法使い、ステファヌス博士の飼い猫ライオネルは、好奇心旺盛。博士にお願いして二日間だけ人間の姿に変えてもらい、ブライトフォードの町へ行きます。生来のすばしこさでスリをとらえたり、詐欺師のイカサマを見抜くライオネルは、たちまち皆の人気者になりますが、権力を笠に着て横暴を働く衛兵隊長スワガードのたくらみで、牢に入れられてしまいます。スワガードは自分を嫌う宿屋の娘、ジリアンを振り向かせるため、宿に放火して自分が助けだそうとしますが、これがとんでもないことに……!

〈ここが見どころ!〉
・魅力的なキャラクターたち
主人公のライオネルは、森の奥深くで暮らし、純粋培養でけがれを知りません。そのため人間界に飛び込むと、町の人たちに「この人大丈夫?」と心配されますが、ぶれることのないその「まっすぐな心」が人々を変え、さらには奇跡を起こします。他にも、自分勝手だけどどこか憎めない悪者スワガード、少女漫画のようにかわいらしい衣裳に似合わず、気骨ある宿屋の娘ジリアンなど、それぞれに個性的かつ分かりやすいキャラクターたちが、物語を生き生きと彩ります。

・大道具スタッフのこだわりと工夫の結晶、火事場シーン
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

スワガードによる放火は予想外に大きな火事となってしまい、宿屋は全焼。実際に壁がはがれ、瓦が落ち、そして柱までもぐらぐらと揺れ、倒れてゆきます。炎と煙も炭酸ガスの圧力ボンベで、かなりリアルに表現。それでも、芝居の流れを邪魔せず、効果的に崩れてゆくのは、落下物の素材にもこだわり、照明や音響と一体になるよう緻密に計算されているから。一度目はその過程に息をのみ、二回目以降はその段取りの「うまさ」をチェックし……と、何度でも観たくなります。

・ほどよくまぶされた、かわいい「笑い」
人間社会を風刺的に描いたくだりもあるため、シーンによっては厭世的な印象を与えてしまいかねないのですが、それを救っているのが随所にまぶされた「笑い」の要素。部下のコーラスを従えてスワガードが片思いを歌う「いとしのジリアン」は、いじらしくもコミカルで、悪者の彼が急にかわいらしく見えてしまうナンバーです。ライオネルが薬売りのタドベリさんに「キス」を教えてもらうくだりも微笑ましく、人間嫌いのステファヌス博士が、人間界でのライオネルの様子を心配するあまり、彼の行く先々に変装して現れるのもご愛嬌。インテリアだとばかり思っていた〇〇が実は!という登場もあるので、場面が変わるごとにまず「ステファヌス博士探し」をするのも面白いかも?!

・四季ファミリーミュージカルのお約束、「一緒に歌おう!」
この演目でも、カーテンコールには主題歌を俳優たちと観客が一緒に歌う趣向があります。恥ずかしがるのは損、損! 伴奏が大音量で鳴っているのでうまい下手は関係ありませんし、俳優さんたちも一緒です。お芝居の余韻に浸りながら、親子で声を出してみては?後々、「あの時、一緒に歌ったね」と、いい思い出になるかもしれません。

《子連れ観劇レポート》
『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

『人間になりたがった猫』撮影:阿部章仁

子どもは3歳児。冒頭、幕外で着ぐるみ姿の猫ライオネルが登場し、歌い踊る様子には喜んでいましたが、幕が上がり、森の中でのライオネルとステファヌス博士の会話が込み入ってくると、次第にもぞもぞ、そわそわ。シートから降りてしまいそうな勢いだったので、客席から、子連れ観劇の強い味方、「親子観劇室」(劇団四季の専用劇場後方に設置されている、ガラス張りの部屋。子供が騒ぎそうな場合などに入ることができる)へと移動したところ、これが正解。子供はリラックスして「猫さん、どうしちゃったの?」などと質問をしたり、火事場のシーンでは身を乗り出して観ていました。

四季のファミリーミュージカルでは、公演によっては終演後に俳優たちがロビーに繰り出し、観客を見送ってくれるのですが、この日もカーテンコールで代表の俳優の「ロビーでお待ちしてまーす!」を合図に、俳優たちは通路を通って外へ。お芝居の世界と現実が突然交わったためか、子供は目をまん丸くしていましたが、ちゃっかり大勢の俳優さんに頭をなでてもらったり握手をしてもらい、上機嫌に。3歳児の身長に合わせてとっさに屈みこみ、心をこめて両手を握ってくれたお兄さんの姿からは、ご本人の人柄がうかがえ、ママにとっても観劇の嬉しい「おまけ」となりました。 

《子連れ観劇レポートその2(2016年3月)》
『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季

『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季

5歳になった子供と再び観劇。2度目ということでテーマ曲「すてきな友達」を既にインプット済みの子供は、みんなで歌う場面(劇中とアンコールの2回)では張り切って唱和。スワガードのコミカル・ソング「いとしのジリアン」が始まると、「ここ、面白いところだよね」と囁き、にんまり顔です。
『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季

『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季

子供が5歳になり、お席でのマナーを心配する必要がなくなってきたことで、親の側も余裕をもって鑑賞することができるようになってきました。今回改めて感じられたのが、人間の弱さ、恐ろしさ。「悪人」であるスワガードが炎に包まれた建物に取り残されると、町の人々は「自業自得だ」と見殺しにしようとし、ライオネルによって助け出されても、重傷を負ったスワガードには誰も薬を貸さないのです。負の感情に支配され、ほんの少しの優しさも失ってしまう彼らは「どんな悪人でも命は大切だ」というライオネルの訴えで目を覚ますのですが、現実世界で人間はその場の空気に流されがちです。こうした状況に投げ込まれたときに、ライオネルのような少数意見に耳を傾けることが出来るのか。子供がもう少し大きくなった時に、ぜひ話し合ってみたいポイントに思えました。
『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季

『人間になりたがった猫』写真提供:劇団四季

今回のキャストではライオネル役の北村優さんが、芯のぶれない安定感のあるダンスと台詞術で、ストーリーをしっかりとリード。薬売りのタドベリ役・飯田洋輔さんも軽妙な味わいで気持ちよくライオネルの芝居を受け止め、テーマ曲を歌う場面では存分に美しい歌声を聴かせてくれます。

お目当ての、衣裳のかわいいジリアン(この日は五所真理子さん)に握手をしてもらって劇場を出た後、子供がぽつりと言っていたのが「悪い人たちが、いい人になって良かったね」。5歳にもなると、悪人が改心するということのカタルシスを感じられるようになるのだなあ、とちょっと嬉しくも感じられた鑑賞でした。

*公演情報*『人間になりたがった猫』上演中~2016年4月10日=東京・自由劇場 


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