住宅ローンの借り換え・返済/住宅ローンの繰り上げ返済まるわかり

繰上げ返済の前に考えておきたいメリット・デメリット

住宅ローンの繰上げ返済とは、契約で約束した毎月の返済額は10万円のところ、ある時に300万円など、通常の返済よりも多く返済することをいいます。「期間短縮型」と「返済額軽減型」があります。メリットばかりが注目される住宅ローンの「繰上げ返済」。メリットがあれば、当然、デメリットもあります。繰上げ返済のデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?

中村 諭

執筆者:中村 諭

住宅ローンガイド

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住宅ローン繰上げ返済のメリット

住宅ローンの繰上げ返済とは、契約で約束した毎月の返済額は10万円のところ、ある時に300万円など、通常の返済よりも多く返済することをいいます。繰上げ返済の方法としては次の2つの方法があります。

住宅ローン繰上げ返済は得か?

住宅ローン繰上げ返済は得か?



「期間短縮型」と「返済額軽減型」

一般的に知られているのは期間短縮型です。この期間短縮型とは、読んで字のとおり、まとまった資金を銀行返済にまわすことで、借入れ期間を短縮(前倒し)できる繰上げ返済の方法です。もうひとつの返済額軽減型とは、借入れ期間はそのまま、最終の返済日は前倒しすることなく、毎月のローン返済額を下げる方法です。

それでは、具体例で繰上げ返済のメリットを確認していきましょう。

~前提:どれも借入れ状況は次のとおりとする~
・借入額(3500万円) ・金利(3.0%) ・借入期間(35年) ・繰上げ返済資金(300万円)
※ 銀行によっては、事務手数料が不要になるなど異なりますが、今回は主題ではないため、無視してお話しします。

1.住宅購入から3年後に『期間短縮型』で繰上げ返済
2.住宅購入から3年後に『返済額軽減型』で繰上げ返済
3.住宅購入から5年後に『期間短縮型』で繰上げ返済
4.住宅購入から5年後に『返済額軽減型』で繰上げ返済


この4パターンの効果を比較してみます。
住宅ローン繰上げ返済比較(クリックで拡大)

住宅ローン繰上げ返済比較(クリックで拡大)


ここからわかるメリットは、繰上げ返済をすることで将来支払うはずだった利息を大きく減らすことができる点です。住宅ローン契約者の多くは30年や35年ローンを組んでいます。しかも契約時年齢が35歳前後の人が多くいるので、この人たちは、繰上げ返済をしないと、定年退職後もローン返済が続いてしまいます。そこで、繰上げ返済をして10年程度は借入れ期間を短くしたいと考えています。

つまり、利息削減効果が高く、返済期間が前倒しできる期間短縮型を選択する人がほとんどだと思います。

例えば、住宅購入から10年経過すると、住宅ローン返済金利が上がる人で、この「金利が上がったタイミングで繰上げ返済をするのが得ですか?」と尋ねる人がいます(まれにFPにも同様に考えている人がいます)が、繰上げ返済を効果的に行いたいのなら「1日でも早く」「1円でも多く」が基本ですので、「金利が上がってから~」と言うのは完全に間違いです。覚えておいてくださいね。

念のために、さらに続けますが、繰上げ返済を300万円等ではなく、全額返済することを想定してみてください。今すぐに全額返済するのと、金利が上がってから返済するのでは、どちらが得ですか?

このように書くと、返済額軽減型の繰上げ返済にメリットはないように思われるかもしれませんが、そうでもありません。例えば「子どもの教育費負担が大きくなってきた」「金利が上がって、毎月の返済額が増えてしまった」など、家計管理上、月々の支出(固定費ともいいます)を抑えたい場合には、この返済額軽減型の繰上げ返済は効果を発揮します。

以上が、メリット面です。

メリットばかりに注目されて繰上げ返済にはデメリットがないように感じますが、やはりメリットがあればデメリットもあります。では、次にデメリット面を見てみます。

住宅ローン繰上げ返済のデメリット

(1)資金繰りについて考える
繰上げ返済をすると、確実に、目の前の現金(貯金)がなくなります。繰上げ返済のメリットばかりを追求した結果、「子どもの学費負担が多くのしかかる時期」や「事故や病気で長期入院が必要になった緊急時」に“貯金がない”なんてことにならないように注意が必要です。

(2)家族のゆとりある生活について考える
住宅ローンには団体信用生命保険という生命保険が付いています。良い話ではありませんが、ローン契約をしているお父さんが死亡したときには、住宅ローンの残高が500万円であろうと、3000万円であろうと“ローン残高に関係なく”すべて保険で支払われます。そう、住宅ローンはなくなります。

もしお父さんがローンを早く返すために、無理して働いていたとしたらどうでしょう?「一家団欒の時間を削った結果」に意味があったのでしょうか?このときに、繰上げ返済をしていなければ、家と一緒に現金も手許に残っていたハズです。残された家族にとっては、繰上げ返済をしないほうがよかったことになりますね。

(3)住宅ローン特別控除について考える
繰上げ返済の結果、借入れ期間が短くなり、完済するまでの返済回数が既に返済済みの期間も合わせて、120回を下回る程短縮してしまったら、住宅ローン特別控除はその年から受けられなくなります。

例えば、当初20年でローンを組んだが、繰上げ返済を何回か繰り返した結果「10年1か月分、期間を短縮できた(ローン返済は119カ月で終了)」というケースが当てはまります。無計画に繰上げ返済をし過ぎると、思わぬデメリットが発生するケースです。このようなときは返済額軽減型の繰上げ返済を選択すれば良かったですね。

(4)低金利の恩恵について考える
繰上げ返済の効果は、メリット面でお伝えした通り「1日でも早く」実行したほうがお得です。でも、低金利かつ住宅ローン特別控除が使える人は比較検討が必要です。

現在の住宅ローン金利はとても低く、年利0.7%台で借りている人もいます。

このとても低い金利で借りている住宅ローン。例えば、住宅ローン特別控除を受けている人は、年末ローン残高の1.0%相当分の税金が戻ってきます(諸条件はあります)。さて、「支払うローンは0.7%、もらう税金は1.0%」繰上げ返済はお得でしょうか?

(5)譲渡所得の特別控除について考える
マイホームを売却して損失が出たときに、「住宅ローンが残っている」&「そのローン額よりも売却した金額が低い」ときは、確定申告をすることで税金が戻ってくる場合があります。しかも、その税金が戻ってくる期間は、売却したその年だけでなく最長で4年間使えます。

繰上げ返済をした結果、ローン残高がマイホームの売却額を1円でも下まわっていたら、この制度は使えなくなってしまいますので、これから家を売る予定があれば、繰上げ返済はせず、住宅を売却するタイミングまで待ったほうがよいかも知れません。

(6)期限の利益について考える
期限の利益とは、「期間の利益」と読みかえてもいいと思うのですが、例えば住宅ローンを期間35年で契約します。この契約した35年間が、自分が銀行と契約して獲得した「期間(時間)」ですね。言い換えると、毎月利息を支払うことで、35年分の「時間」を手にしたともいえるのです。

つまり35年間という「期間(時間)」の権利を持っているわけです。これを期限の利益と言います。繰上げ返済を期間短縮型で行うと、その権利を一部放棄することになるのです。会社を経営している人は、よくわかると思うのですが、期限の利益がなくなるということ(期限の利益の喪失)は、実はとっても怖いことだったりします。

メリット・デメリットともにありますが、私は、ローン残高500万円で預金が0円よりも、ローン残高2000万円でも、預金が1500万円残っているほうが安心と考えます。“損得”以外にも検討すべき事項があることをご理解いただければ、あとは、あなたの価値観次第です。住宅ローンと上手にお付き合いください。
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