人間くさいおばけたち 『めっきらもっきら どおんどん』
「さあ、外で遊ぶぞ!」と思ったのに、近所の友だちは皆どこへやら。「みんなどこへ行っちゃったの? つまんない~!」。 こんな気持ち、子どもの頃に味わったことがあるような気がします。そんな時、私はどうしたかな。うっそうとした木々に包まれた神社まで来た「かんた」は、しゃくな気持ちに任せて即席の歌を歌いました。
「ちんぷく まんぷく
あっぺらこの きんぴらこ
じょんがら ぴこたこ
めっきらもっきら どおんどん」
そうしたら、かんたを誘う声が、大木の根元の穴から聞こえてきました。
「こっちゃこい こっちゃこい、こっちゃきて うたえ」。
穴をのぞいたかんたが、強い風と共に吸い込まれた先では、やはり遊び友達を探していた3人のおばけが待ち受けていました。「ばけものなんかとあそぶかい」というかんたの言葉に泣き出したおばけたちを前に、仕方なくかんたは、おばけたちと遊んであげることにします。
ここから始まるかんたとおばけたちの遊びの世界。3人寄るとけんかもしてしまうけれど、温厚で陽気なおばけたちとともに、かんたは我を忘れて遊びます。縦横に飛び回り、跳ね回る様子が、降谷ななさんの躍動感ある絵でページいっぱいに描き出され、自分も仲間に入って遊んでいるような気持ちになれるところが、子どもたちの心をつかみます。身体をいっぱい動かして遊んだあとは、やっぱりおやつ。おやつを食べたら、おばけたちはかんたをよそに、眠りの世界へ。ふと我に返ったかんたは、ある存在を思い出します。 そのことによって、かんたとおばけたちの別れが近づいてしまうのです。さあ、ここからがクライマックス!
遊びは、子どもの生活のすべて。我を忘れて遊ぶほどの、おばけたちとの楽しい一期一会の出会いは、かんたの記憶にずっと残るのではないかと思わされます。それがたとえ、かんたの空想や夢の中であったとしても。人間をよそに、泣いたりけんかしたり眠ってしまったりと、非常に“人間くさい”おばけたち。こんなおばけたちだったら、たまに遊び来てほしいですね。
絵を読む楽しさ 『おばけでんしゃ』
「ようかい駅」を出発するおばけでんしゃに、たくさんのおばけが乗り込みます。よく見ると、結構怖い! それ以上に、楽しくて突っ込みどころが満載のおばけたち。スタート直前の電車の脇で、長いふんどしを垂らした馬のおばけが、スターティングポーズ。ろくろっくびの小僧は、電車の窓から首を伸ばし、駅弁を眺めてよだれを垂らしています。長旅になるのでしょうか、角の生えた小鬼おばけは、四足の移動販売車にある子ども向け雑誌を吟味している模様。おしゃぶりをくわえたでっかい赤ちゃんおばけに、スーツにハットでビシッと決めたがい骨も、乗客です。どんな電車の旅が始まるのでしょうか!?
電車は、夏の海、秋の山の紅葉、雪景色をへて、満開の桜を駆け抜けます。四季をかけての長旅なのでしょうか。それとも、おばけの世界には、同時期にすべての季節があるのでしょうか。
細部まで書き込まれた西村繁男さんの絵。お話は、駅名を知らせるアナウンスと、「がたたん がたたん」という電車の音のみで展開していきますが、各ページにたくさん登場するおばけたちは、それぞれが独立した個性を主張しています。何度読んでも読みつくすことができないほどです。このページでここにいたおばけは、次のページではここでこんなことをしている。姿を変えてこんなところで遊んでいる。こんなところにもおばけが隠れている。絵によって豊かに語られる世界に引き込まれ、「絵を読む」楽しさを存分に味わうことができます。
「にんげんえきー にんげんえきー ひとにばけて おおりください」に続くラストのページは、なかなかシュール。「うふふふふ」というおばけの笑いの意味は、怖がりのお子さんには内緒にしておきましょうか!?