シベリウスが愛した自邸〈アイノラ〉は、まるで桃源郷のような美しい佇まい

アイノラ

庭側から見ると、まるで森に埋もれるようにひっそりとした佇まいを見せるシベリウスの自邸〈アイノラ〉。彼の美しい作品の数々がこの家で作曲されていた

フィンランドが独立の機運に湧き始めた19世紀後半から20世紀半ばにかけて、祖国の自然や伝承神話などをモチーフにした、美しく神秘的な作品を数多く残したことで知られる国民的作曲家ジャン・シベリウス(Jean Sibelius/1865-1957)。彼の作品はときに国民の愛国心を鼓舞し、世界にもフィンランドの風土の美しさや民族性をしらしめる役割を担いました。

景観

アイノラの周辺には、のどかな田園風景が広がる

今なお世界中にあまたいるシベリウスファンにとっての聖地とも言えるのが、彼が30代後半から死去するまで家族と住み続けていた自邸〈アイノラ〉。一時的に創作活動が停滞し精神的に追い詰められていたシベリウスを救うため、妻のアイノたちが、それまで拠点としていたヘルシンキから郊外への移住をシベリウスに提案したのでした。1904年、シベリウス一家はヘルシンキから北へ30キロ離れた、ヤルヴェンパーという美しい片田舎に5千平方メートルの土地を購入し、丸太造りの2階建ての家屋を建てて移住を果たします。

 

サウナ

妻のアイノが設計を手がけたというサウナ小屋。中の様子も見学できる

家具や棚、階段、後に増築されたサウナ小屋などの設計は、建築を勉強していた妻アイノが担当。ピアノの置かれたリビングには、親友であった芸術仲間ガッレン=カッレラによる肖像画や風景画などが掛けられ、おしゃれなイタリア製のシャンデリアやオランダ製の暖炉なども設置されました。この自慢の新しい自邸は、最愛の妻の名にちなんで「アイノのいる場所」の意味を持つ〈アイノラ〉と呼ばれるようになり、移住以来50年にわたり、シベリウスにとっての創作活動の拠点であり続けたのでした。

 

5~9月のあいだのみ、自邸内部や敷地内のようすが一般公開

自邸

シベリウス一家が暮らしていた自邸のメイン家屋。家具やピアノなどがそのまま保管されており、当時の生活の様子をありのままに見学できる

〈アイノラ〉の敷地内がそのままミュージアムとして一般公開されるのは、毎年5~9月のあいだのみ(その年の開館時期はウェブサイトで要確認)。鑑賞のメインとなるのはもちろん、田園風景に臨む丘にたたずむ、シベリウス一家が暮らしていた可愛らしい外観の家屋。敷地内入口付近にあるミュージアムショップにまず立ち寄り、入場料を払ってチケット代わりのステッカーをもらってから鑑賞を開始します。

自邸の内部は可能な限り往時の様子のままに保存してあり、実際にリビング、キッチン、書斎、寝室など各部屋に置かれていた家具や日用品、ピアノや絵画を、ていねいな解説書(日本語版あり)を手に見てまわることができます。また、駐在している学芸員に尋ねれば、細かな質問にも英語で答えてもらえます。諸外国から輸入したものも多いという洒落たインテリアや、絵画分野でシベリウスと同じく国民的芸術家の名を馳せていたアクセリ・ガッレン=カッレラの絵画など、注目ポイントもたくさん。シベリウスの日常や裕福度、そして何より家族と最愛の妻に囲まれ幸せな家庭を築いていた様子が、ありありと伝わってきます。

次ページでは敷地内のその他の見どころとアクセス方法を紹介!