療養食・食事療法/その他の病気の療養食・食事療法

糖尿病の合併症:胃不全麻痺の栄養療法

糖尿病の合併症の一つである胃不全麻痺が増えてきています。胃不全麻痺になると、みぞおちの痛み・お腹の張り・食欲低下・胃食道逆流・下痢・便秘・体重低下などの症状がみられることがあります。栄養療法などについて紹介します。

一政 晶子

執筆者:一政 晶子

管理栄養士・米国登録栄養士(RD) / 栄養管理・療養食ガイド

ガイドが栄養士として働いているアメリカでは、糖尿病の合併症として胃不全麻痺が増えてきています。アメリカで問題となる慢性病は、残念ながら日本でも増えてくる可能性があるので、予防の願いも込めて紹介したいと思います。胃不全麻痺の症状には、みぞおちの痛み、お腹の張り、食欲低下、GER(胃食道逆流症)、下痢、便秘、体重低下などがあります。

糖尿病性の腹痛、消化器官の問題は何?

腹痛

お腹の調子が悪い・・・。なぜだろう。

胃不全麻痺(gastroparesis)が原因のことがあります。胃不全麻痺は、糖尿病の合併症の一つで、消化管の神経がダメージを受けます。長期にわたる高い血糖値は迷走神経にダメージを与えます。通常、胃に入った食物は迷走神経による動きですりつぶされ、胃から排出されて小腸へと移動します。

胃不全麻痺になると、迷走神経がダメージをうけ、この動きが極端に遅くなったり、完全に止まったりしてしまいます。食べた物が長い時間胃に残り、胃から排出されるまで時間が掛かるため、胸焼け、吐気、食欲不振、嘔吐、胃食道逆流、高血糖や低血糖、腹痛などが起こります。

糖尿病以外では、胃腸や神経系の手術、パーキンソン病などが原因で胃麻痺になることがあります。この胃麻痺は統計的に男性より女性に多いと言われています。

治療方法は?

胃麻痺の治療は糖尿病と同じで、治すのではなく管理することが基本になります。慢性病ですが、症状が強くなったり、弱くなったり、ほとんど見られなくなったりなど、症状が繰り返されます。治療は症状をやわらげるために行われます。胃不全麻痺の診断後は服薬と食事療法が一般的です。

胃不全麻痺の食事方法

一般的な食事療法は、1日3回の食事を、1日6回食にすることです。一度の食事量を少なくする代わりに食事回数を増やします。食べ物をよく噛み、食事中に水分をほどよくとり(炭酸飲料は除く)、食後2時間は横にならず、歩いたり座ったりして胃からの排出を促します。脂肪の多い食事は胃からの排出を遅らせるため、低脂肪が勧められています。

食物繊維も胃からの排出を遅らせるので、食物繊維の多い野菜や果物は控えるか、よく加熱してやわらかくしたり、さらにシェークやスープなどのドロドロ状にするなどの工夫が必要なこともあります。食材の中には胃石(Bezoar)の原因となるものがあります。胃石とは胃に残った食物の残渣が塊になったものです。糖尿病性神経症により胃石がある場合、りんご、いちごなどのベリー類、ココナッツ、オレンジ、芽キャベツ、インゲン豆、豆類、芋の皮などを避けるようにアドバイスされるかもしれません。

固形物が食べられなくなると、流動食が必要になることがあります。症状が変化することも多いようなので、流動食しか摂れないような時期があっても、改善することもあります。症状にあわせて食事を調整し、栄養が偏ったり不足しないように注意しましょう。胃腸の不調がなければ、特別な食事療法は必要ありません。もちろん、血糖値を管理する食事は大切です。

服薬や食事療法をしても、体重低下が抑えられなかったり、苦痛が深刻になると、胃ペースメーカーを入れたり、小腸に栄養チューブを入れて胃を通さずに栄養を摂取を試みることもあります。下痢や嘔吐等で脱水症状に陥っている場合、低体重や低栄養のリカバリーに静脈栄養を使うこともあります。

胃不全麻痺になった場合の血糖値のコントロールは?

胃から食物が排出される時間が予測できなくなるため(=小腸から吸収される炭水化物が血糖値を上げるタイミングを予測できない)、血糖値の管理が難しくなります。インスリンを食後に使ったり、血糖値測定の頻度やインスリンの使用頻度を増やす必要があるかもしれません。

血糖値がある程度安定するまで、ピューレー状にした食事にするのも一つの手段です。胃不全麻痺だと、食物を胃の中で上手くドロドロ状にすることができません。ドロドロ状のピューレー食にすることで、胃から排出を促しやすくなるため、消化に掛かる時間が予測しやすくなるために、血糖値のコントロールがしやすくなることもあります。

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