たくさんの波乱を乗り越えて実現する『むしたちのおんがくかい』
街中に暮らす虫たちが、音楽会を開こうと公園に集まりました。しかし、早速1つ目のじゃまが入ります。公園の野外ステージで、人間たちのコンサートが始まったのです。静かで落ち着いた場所を求め、虫たちはみんなで大移動。空き地の土の山では、ショベルカーに土を振り落されたり、突然の大雨に流されて、排水口に飲み込まれたり。嬉しいのは、大勢の仲間のうち誰として欠けることなく、苦労の果てに音楽会が実現すること。巻末には、音楽会で演奏される楽譜がついています。「リリリー ルルルー リーンリーン コロルリ チロルリ ガチャ ギー チョン」。メロディーをつけて子どもと一緒に歌ってみると、もはや音楽隊の一員の気分です。
ゆるいムードで和やかに進む『むしたちのうんどうかい』
トノサマバッタの園長先生の挨拶で始まった運動会。紅白の応援合戦は皆、真剣そのものの表情でしたが、競技は何ともゆるいムード。しょっぱなの「はしりっこきょうそう」では、ケラが土にもぐって行方不明。羽を広げてとんだクルマバッタは失格! ガガンボは、足が長すぎて走るのが苦手です。一事が万事、こんな調子。勝負に執着しない虫たちのショーは、つなひき虫によるハプニングで、大笑いのうちに終わります。
力を合わせて仲良く楽しく、お手本のような『むしたちのえんそく』
カブトムシの村長さんの仕切りのもと、大勢の虫たちが池に遠足に出かけます。大きなカエルに遭遇して縮み上がるハプニングも乗り越えて、無事に到着。池の虫たちが村の虫たちを大歓迎します。アメンボの水上スキーでスピード感を楽しむアリたち。ハンミョウが乗ったミズスマシの水上ボートは、同じところをグルグル。すいれんの花のボートにみんなで乗って冒険し、すいれんの葉っぱでお昼寝。池の虫たちによる楽しい出し物も待っています。この「むしたちの~」シリーズには、「かくれんぼ」「おまつり」などもあります。それぞれのお話でユーモラスな表情の虫たちが展開する、個性を生かした活躍ぶりやおどけぶりから、その虫の生態や特徴に親子できっと話が弾むことでしょう。
とにかく、登場する虫たちがみんなとても仲が良いところが、読んでいて楽しく温かい気持ちになるのです。実際には、弱肉強食の厳しい自然の摂理の中で、淡々と生を全うしていく虫たち。幼虫のうちに他の虫に食べられてしまうこともあれば、クモの巣にかかり、最期を迎える虫もいるでしょう。そういった絵本と現実の世界の違いにも、次第に話が発展するようになったら、それもまた、成長の中で絵本を繰り返し読む楽しみです。
また、アリが家に侵入して来て行列を作るのはまっぴら。小さな子が興味本位でハチの巣に近づくのは阻止しなければなりません。絵本の中の世界のように可愛いことばかりでもなく、疎んじられることも多い虫たちです。しかし、この絵本を読んでいると、人間とは違う虫という生き物への興味を、軽やかに誘われます。ちなみに、虫が大の苦手な私。この絵本の影響も少なからずあり、クワガタを素手でつかめるようになりました。大きなカブトムシに挑戦する勇気は、まだないんですけれどね!