記憶術を超えた上達の本質がわかる
トランプ記憶も毎日の地道な訓練から
その一つは著者がエド・クックという世界記憶力チャンピオンに何度も輝いたことがある人から直接学んだこともあるでしょう。
とはいえ、何か特別な記憶術を学んだわけではありません。
世界チャンピオンが教えてくれた記憶術も、「記憶の宮殿」や「場所法」と呼ばれるイメージと場所を活用した定番の記憶術です。
やはり、著者を全米記憶力チャンピオンにまで押し上げたのは、地道な訓練でした。
彼は、本書の終わりにこう書いています。
それに加え、著者は上達論の世界的権威とも言えるフロリダ州立大学のエリクソン博士を訪ね、その上達論をベースに訓練を積んでいます。「詩や数字、トランプ、人のプロフィールなどの記憶法を学んでみて、記憶力の向上は、過酷なトレーニングの単純な効果にすぎないということがわかった。」(P332)
エリクソン博士は日本ではあまり知られていませんが、あなたも「1万時間の法則」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。
これは1万時間におよぶ計画的訓練をすればだれもがその分野で秀でた能力を身に付けられるというものです。
本書はその上達論が適宜参照されており、記憶術のみならず、さまざまな能力を上達するためのポイントも学ぶことができるのです。
記憶術のすべてがわかる
このように盛りだくさんの本書ですが、さらに古代ギリシアから始まる記憶術の歴史にも一章を割いて、記憶術が長い歴史のなかでどのように扱われてきたかを書いています。たとえばこんなことも書かれています。
現代の日本でも、記憶術というとまだまだ怪しいイメージですし、歴史は繰り返していることを実感させられます。「記憶テクニックは「印象的ではあるが、結局は役に立たないもの」と、常に非難されてきた。17世紀のイギリスの哲学者フランシス・ベーコンは、「一度聞いただけで大勢の名前や大量の単語を復唱することを……曲芸師や綱渡り芸人や旅回りの喜劇役者がやっている技術程度以上には評価しない。片方は脳で、片方は身体で、面白くはあるが価値がないことをやっている」と述べている。彼は記憶術をまったく「不毛」なものだと考えていた。」
このように、記憶術を内側からも外側からも見つめ、それを体験からも理論や歴史からも語った稀有な本です。
試験勉強への記憶術の活用を考えている人には即効性はありませんが、純粋に記憶術について興味を持ったすべての人にお勧めします。