不動産売買の法律・制度/不動産売買ワンポイントアドバイス

急傾斜地崩壊危険区域とは?

「急傾斜地崩壊危険区域」と書かれた標識を、都市部の住宅地でもときどき見かけることがあります。大雨や地震による宅地崩壊の危険リスクはなるべく避けたいものですが、急傾斜地崩壊危険区域内の敷地を購入するときには、その特性を十分に理解しておくことが必要です。これがどのようなものかを知っておきましょう。(2017年改訂版、初出:2013年4月)

執筆者:平野 雅之

【不動産売買ワンポイントアドバイス No.001】

急傾斜地崩壊危険区域

急傾斜地崩壊危険区域の一角にはこのような標識が立てられている


急傾斜地崩壊危険区域とは、1969年(昭和44年)に施行された「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」にもとづいて、都道府県知事が指定するものです。

崩壊のおそれがある急傾斜地(傾斜角度が30度以上の「崖」)で、その崩壊によって相当数の居住者などに危害が生じるおそれのある区域、およびそれに隣接する一定の区域が対象です。

急傾斜地崩壊危険区域内で次の行為をしようとするときは、あらかじめ都道府県知事の許可を受けなければなりません。

1.水を放流し、または停滞させる行為、その他水の浸透を助長する行為
2.工作物などの設置または改造
3.のり切、切土、掘削または盛土
4.立木竹の伐採
5.木竹の滑下または地引による搬出
6.土石の採取または集積
7.急傾斜地の崩壊を助長し、または誘発するおそれのある行為

この法律では建築物やその工事について直接的な制限規定はありませんが、急傾斜地崩壊危険区域に重ねて「災害危険区域」を指定するなどして、自治体の条例で独自の建築制限を設けている場合があります。

急傾斜地崩壊危険区域や災害危険区域に該当する敷地や住宅を購入するときには、その内容をあらかじめしっかりと調べることが欠かせません。

急傾斜地崩壊危険区域のうち、「崖の高さが10メートル以上」「工事により保全される人家が10戸以上」など一定の要件を満たす場合には、国庫補助事業として「急傾斜地対策工事」が実施されます。

また、「崖の高さが5メートル以上」「工事により保全される人家が5戸以上」などの場合には、都道府県の単独事業として対策工事が行なわれることもあります。

ただし、用地提供や工事の支障となるものの移設など住民の協力が得られない場合は、急傾斜地崩壊危険区域であっても都道府県が工事をしないこともあるので注意しなければなりません。

東京都の場合、急傾斜地崩壊危険区域は区部で7箇所、多摩地域で36箇所の指定にとどまります(2017年1月現在)が、たとえば横浜市では指定区域が694箇所あり、このうち対策工事に未着工なのが19箇所、整備中が26箇所(2016年度末現在)となっています。

国土交通省による全国の集計は少し古く2002年度時点となりますが、急傾斜地崩壊危険区域に指定されていない崖を含む「急傾斜地崩壊危険箇所」が、人家5戸以上のところだけでも113,557箇所にのぼり、このうち崩壊防止施設などが整備されたのは20,600箇所に過ぎません。

さらに、原則として都道府県による整備の対象とならない人家1~4戸の場合は176,182箇所が危険とされ、こちらの対策はその後も大きく遅れていることでしょう。

急傾斜地崩壊危険区域にはそれを示す標識が立てられており、何ら予備知識がないままこれを見れば、何だか怖いイメージを抱くかもしれません。しかし、危険区域に指定されてすでに対策工事が終わっていれば、他の「未対策区域に比べればまだ安全」だと考えることもできます。


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