ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

作曲家A・メンケンにきく、曲作りの極意

舞台『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』や『アラジン』『美女と野獣』『ノートルダムの鐘』等のディズニー映画で大活躍中の作曲家アラン・メンケン。代表作の一つ『リトル・マーメイド(以下LM)』の日本版開幕に合わせ、来日した彼が、4月7日、合同インタビューの場に登場。笑顔を絶やさず、熱心に語った彼のコメントから、『LM』舞台化にあたっての工夫、そして曲作りの過程についての、興味深いエピソードをご紹介します。

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

(当日、実際の共同インタビューでは複数の記者からランダムに質問がありました。ここでは内容的に関連のあるエピソードごとに、質問・回答とも整理してご紹介します。)
アラン・メンケン。これまで4度のアカデミー賞最優秀作曲賞と最優秀主題歌賞のほか、ゴールデングローブ賞、グラミー賞など受賞多数。近作に『ニュージーズ』。Photo by Marino Matsushima

アラン・メンケン。これまで4度のアカデミー賞最優秀作曲賞と最優秀主題歌賞のほか、ゴールデングローブ賞、グラミー賞など受賞多数。近作に『ニュージーズ』。Photo by Marino Matsushima


舞台化によって、登場人物にはより深みが与えられる

――アニメ版と比べると、舞台版の『リトル・マーメイド(以下LM)』はトリトン王の娘(アリエル)への心情がより丁寧に描かれていたり、後半、(アースラから人間の足をもらうかわりに)声を失ったアリエルに曲が与えられているところが異なりますね。

アニメから発展させるにあたって、僕ら作り手はキャラクターに深みを持たせることができるのが舞台版の特色です。
今回書き加えられた、トリトン王の心情には同じ父親として共感できたので、娘を手放す、そしてもう二度と会えないかもしれないというくだりは、ぜひうまく表現したいと思いました。ただ、(感情移入が激しすぎて)バランスが悪くならないようにとも気を使いました。舞台版では、登場人物それぞれに物語が与えられている。それぞれのストーリーのバランスをどうとるか、がなかなか難しいのです。
物語の後半、観客としてはアリエルの声を聴きたいのだけど、彼女は喋れないという設定。そこで、(モノローグという)心の内面を語る、舞台特有の手法を使ってみたのです。

――ヨーロッパ版誕生の折には、音楽家であるあなたはどうかかわっていたのでしょうか。(注・『LM』は2008年にブロードウェイで初演。その後2012年のヨーロッパ版で大幅にブラッシュアップされた。)

私は作曲家ですが、ミュージカルの台本作家でもあると認識していますので、作品の構成には深くかかわっています。一度プロダクションが出来上がると、クリエイティブチームが集まって「こうしたらもっとよくなるのでは」という検討を必ずします。日本版についてもおそらくこの後、すると思いますよ。
本作のような大きな変更が生じるのは珍しいのですが、それは皆さんのストーリーに対する愛着が大変強いことの表れであるかもしれません。ショーによっては一度出来上がるとほとんど手を加えない作品もあります。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『美女と野獣』などがその例です。本作は実に15年も手を加え続けました。現時点では「うまくできた」と満足していますが(笑)。
ブロードウェイ版にはなくてヨーロッパ版にはあるものの一つに「パパのかわいい天使(Daddy’s Little Angel)」というアースラのナンバーがあります。(注・彼女が嫉妬から姉たちを次々と殺してしまった経緯を、コミカルに歌うナンバー) これはブロードウェイで初演される前に書いた曲なのですが、「姉を皆殺しというのは、ディズニーの観客にはちょっと動揺を与えるのでは…」という声があり、使われずにいたのです。でも、いいじゃないですか(笑)。歌詞はともかく、曲自体はとても楽しい曲なのです。ヨーロッパ版誕生の折に、ぜひこのナンバーを入れられないかと、私が強く要望したことで、この曲は復活したのです。
『リトル・マーメイド』より。撮影・下坂敦俊

『リトル・マーメイド』より。撮影・下坂敦俊


作曲前に、自分自身にたくさんの問いかけをする

――メンケンさんは『LM』のみならず、各作品で非常に印象深いメロディをお書きになっていますが、それはどのように生まれるのでしょうか?

僕はピアノの前に座る前に、いつも自分に質問をたくさん投げかけます。「どうやってこの物語を伝えよう?」「どんなスタイルがいいか?」「どんな瞬間にこの音をいれようか」「どこからはじめてどう終えようか」等々…。たいてい作詞家と一緒にその行程を経るのですが、これらの質問にすべて自分で答えられて初めて、ピアノの前に座ります。そうして創造という、魔法のような時間が始まるのです。

具体的な例を挙げれば、例えば『LM』の2幕には「一歩ずつ(One Step Closer)」という曲があります。エリック王子がアリエルに対する気持ちをうたう歌です。いろいろ考える中で、以前登場させたモチーフを使ったらどうだろうと思いつき、船上のシーンのモチーフを展開させることにしました。

しっかり心に残る「核」を作る。そしてそれを展開させてゆく。

――もう少し『LM』での具体例をうかがえればと思いますが、「パート・オブ・ユア・ワールド」という曲のサビの部分で、同じフレーズが3回繰り返され(原曲で「Up where they walk, Up where they run, Up where they ~」のくだり)、ヒロインの地上への強いあこがれを効果的に表現しています。このメロディはどのように生まれたのでしょうか?(この質問は筆者=松島によるものです)

そこは『LM』を書く上で最初に浮かんだモチーフです。主要なモチーフが浮かんだら、それをどう展開させてゆくか、あるいは脇道に逸らしていったりするかというのが作曲の仕事です。『美女と野獣』のサビでも同じことです。私が作曲家として喜びを感じ、またミュージカルの仕事をしていてよかったと感じるのは、今日のインタビューのような場所でほんの少しフレーズを口ずさんだだけで、皆さんがあの曲だ、こういう場面の曲だと思い浮かべてくださること。そして作品が世界各地で上演されること。音楽とは、なんと普遍的なものであることでしょう。
そのように楽しんでいただけるよう、作曲家としてはまず、しっかり心に残るような、そしてうまく機能する「核」(サビ)を作らなければならないと思っています。

【公演情報】『リトル・マーメイド』上演中~2013年12月31日公演分まで発売中。四季劇場「夏」http://www.shiki.jp/

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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