最新技術と人間ドラマが織りなす、独創的なおとぎ世界
『リトル・マーメイド』より。撮影・荒井健
アンデルセンの童話『人魚姫』を、とびきり明るい恋物語にアレンジし、「アンダー・ザ・シー」「パート・オブ・ユア・ワールド」「キッス・ザ・ガール」などアラン・メンケンの名曲をてんこ盛りに。何の迷いもなく、初恋をみのらせるべく突き進むヒロインの姿の爽快さもあいまって、アニメ版は89年の公開時、世界的な大ヒットとなりました。
舞台化にあたっては、海中の人魚たちをどう表現するのか、そして勇気あるヒロインが紆余曲折を経て恋を成就させる物語の多いディズニー作品のなかで、どう独自性を出すのかがポイントとなりましたが、昨年開幕の欧州版にさらに磨きをかけた今回の舞台は、尾ひれまで細やかに動くフライング技術や、ヴィクトリア朝の飛び出す絵本やアンティークの陶磁器絵柄を思わせる背景画を効果的に使い、みごとに「誰も見たことのない世界」を実現。とりわけ、夕刻の縁日を思わせる「アンダー・ザ・シー」のくらげたちの淡い色合い、対照的に目を射るようにヴィヴィッドな王子の赤い船など、セット・デザイナー、ボブ・クロウリーの洗練された色使いが目を奪います。
『リトル・マーメイド』より、黒衣たちが足を操るアースラのシーン。撮影・荒井健
しかし、本作の最大の見どころは華やかなヴィジュアルではなく、あくまでも人間ドラマであるところが、このプロダクションの良さ。終盤、アースラとの契約で声をなくしたアリエルが身振り手振りでエリック王子に話しかけるシーンでは、彼女の純粋さ、思いの強さがあますことなく表現され、王子に思いが伝わる奇跡に心からほっとさせられます。(この日のアリエルは谷原志音さん。強靭で情感溢れる歌声の持ち主でもあります)。舞台化にあたって加えられたアリエルと父トリトン王の衝突と和解の過程も、ドラマに奥行を与えており、娘を持つ男性客たちの普遍的な共感を呼びそうです。
『リトル・マーメイド』初日カーテンコール。撮影・下坂敦俊
盛大に行われた初日パーティーで、谷原志音さん、飯野おさみさんにミニ・インタビュー
パーティーで壇上に上がった、初日の出演者たち。撮影・松島まり乃
――ご自身の役をどのようにとらえ、演じていますか?
谷原 16歳ですが、独立心、夢をかなえようという意思がとても強い女の子です。人に好かれようとするのではなく、夢に向かって頑張る姿が結果的にみんなに愛される。そんな女の子だと思って演じています。
――終盤、エリック王子に対して身振りで何と話しかけているのでしょう?
谷原 あの海で嵐が来て、あなたが溺れかけたところを、私が助けたんですよ。あなたが探していたのは私なんですよ、と訴えているんです。
――韓国のご出身ということですが、日本語の発音がとてもきれいでした。
谷原 3年前に来日して、それから一生懸命勉強しています。
――セバスチャンは「アンダー・ザ・シー」「キッス・ザ・ガール」という、このショーの2大ヒット曲を担当する重要なお役ですね。
飯野 「アンダー・ザ・シー」はとても楽しい曲に聴こえると思いますが、実は歌う側はキーが高くて大変なんですよ。高い方のG(ソ)をしょっちゅう、それも動きながら出さなければならないので、よっぽど(体幹の)支えがないと歌えない。稽古の最初の頃は息切れしていましたよ(笑)。これからももっともっと鍛えて、楽しく、楽に歌えるようにしたいと思っています。
――飯野さんは半世紀もの間、ずっと第一線で活躍していらっしゃいます。その秘訣は?
飯野 やっぱり体に常にいいエネルギーを貯めて、若返り続けるということかな。そうイメージしながら毎日トレーニングをしているし、食事にも気を使っています。だから薬やサプリを飲まなくても、病気知らずですよ。
【公演情報】『リトル・マーメイド』上演中~2013年12月31日分まで発売中。四季劇場「夏」http://www.shiki.jp/