ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

話題の新作『リトル・マーメイド』初日レポート

95年初演の『美女と野獣』に始まり、『ライオンキング』『アイーダ』と日本でも順調にファン層を増やしてきたディズニー・ミュージカル。その久々の新作『リトル・マーメイド』が4月7日、東京の四季劇場「夏」で開幕しました。初日の舞台、そして終演後の初日パーティーの模様を、メインキャストへのミニ・インタビューも交えてお伝えします。

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

最新技術と人間ドラマが織りなす、独創的なおとぎ世界

『リトル・マーメイド』より。撮影・荒井健

『リトル・マーメイド』より。撮影・荒井健

4月7日、初日ならではの高揚感に満ちた四季劇場「夏」。満員の客席を見渡すと、20代、30代のカップルが目立ちます。場内アナウンスに続いて場内が暗くなり、心浮き立つような序曲がスタート。その中ほどで紗幕の向こうに海中をゆらめく人魚のシルエットが浮かび上がり、劇場は一気に海の中へ…。

アンデルセンの童話『人魚姫』を、とびきり明るい恋物語にアレンジし、「アンダー・ザ・シー」「パート・オブ・ユア・ワールド」「キッス・ザ・ガール」などアラン・メンケンの名曲をてんこ盛りに。何の迷いもなく、初恋をみのらせるべく突き進むヒロインの姿の爽快さもあいまって、アニメ版は89年の公開時、世界的な大ヒットとなりました。

舞台化にあたっては、海中の人魚たちをどう表現するのか、そして勇気あるヒロインが紆余曲折を経て恋を成就させる物語の多いディズニー作品のなかで、どう独自性を出すのかがポイントとなりましたが、昨年開幕の欧州版にさらに磨きをかけた今回の舞台は、尾ひれまで細やかに動くフライング技術や、ヴィクトリア朝の飛び出す絵本やアンティークの陶磁器絵柄を思わせる背景画を効果的に使い、みごとに「誰も見たことのない世界」を実現。とりわけ、夕刻の縁日を思わせる「アンダー・ザ・シー」のくらげたちの淡い色合い、対照的に目を射るようにヴィヴィッドな王子の赤い船など、セット・デザイナー、ボブ・クロウリーの洗練された色使いが目を奪います。

『リトル・マーメイド』より、黒衣たちが足を操るアースラのシーン。撮影・荒井健

『リトル・マーメイド』より、黒衣たちが足を操るアースラのシーン。撮影・荒井健

海中シーンではパペットが多用されますが、『ライオンキング』でパペット操作には慣れている四季とあって、パッと向きを変える小魚の群れ、なめらかに泳ぐエイ等のパペットの動きは実にリアル。黒衣たちが操作する巨大タコの悪役、アースラの足も、アースラの感情の起伏にシンクロし、パッと閉じたりぐっと伸びたり。アースラ役の女優(この日は青山弥生さん)と併せ、大勢で一役を演じる様が実に自然です。

しかし、本作の最大の見どころは華やかなヴィジュアルではなく、あくまでも人間ドラマであるところが、このプロダクションの良さ。終盤、アースラとの契約で声をなくしたアリエルが身振り手振りでエリック王子に話しかけるシーンでは、彼女の純粋さ、思いの強さがあますことなく表現され、王子に思いが伝わる奇跡に心からほっとさせられます。(この日のアリエルは谷原志音さん。強靭で情感溢れる歌声の持ち主でもあります)。舞台化にあたって加えられたアリエルと父トリトン王の衝突と和解の過程も、ドラマに奥行を与えており、娘を持つ男性客たちの普遍的な共感を呼びそうです。

『リトル・マーメイド』初日カーテンコール。撮影・下坂敦俊

『リトル・マーメイド』初日カーテンコール。撮影・下坂敦俊

「恋」を知る若い女性にはもちろん、シェフ・ルイのナンバーなどドタバタシーンもあり、子どもも楽しめそうですし、前述の通り娘を持つ父親にもアピールしそう。それに加え、骨董や欧州文化に興味のある成熟した層も「あの書き割り(背景画)はデルフトかしら、ロイヤル・アルバートかしら…」などと興味を掻き立てられそう。さすが、あらゆる層を取り込むディズニーのミュージカルです。


盛大に行われた初日パーティーで、谷原志音さん、飯野おさみさんにミニ・インタビュー

パーティーで壇上に上がった、初日の出演者たち。撮影・松島まり乃

パーティーで壇上に上がった、初日の出演者たち。撮影・松島まり乃

公演後、品川のホテルで行われた初日パーティーには、多数のゲストが来場。来賓を代表して、ディズニー・シアトリカル・プロダクションズのトーマス・シューマーカー社長が「『リトル・マーメイド』は、アリエルが自分の本当の家、居場所を見つける物語。今日の舞台を観て、作品はここ東京で、その家を見つけたと確信しました」とスピーチしました。無事に初日が開いた興奮冷めやらぬ中、主人公アリエル、そしてアリエルを見守り、応援するカニの作曲家、セバスチャン役の飯野おさみさんにお話をうかがいました。

――ご自身の役をどのようにとらえ、演じていますか?
谷原 16歳ですが、独立心、夢をかなえようという意思がとても強い女の子です。人に好かれようとするのではなく、夢に向かって頑張る姿が結果的にみんなに愛される。そんな女の子だと思って演じています。
――終盤、エリック王子に対して身振りで何と話しかけているのでしょう?
谷原 あの海で嵐が来て、あなたが溺れかけたところを、私が助けたんですよ。あなたが探していたのは私なんですよ、と訴えているんです。
――韓国のご出身ということですが、日本語の発音がとてもきれいでした。
谷原 3年前に来日して、それから一生懸命勉強しています。
――セバスチャンは「アンダー・ザ・シー」「キッス・ザ・ガール」という、このショーの2大ヒット曲を担当する重要なお役ですね。
飯野 「アンダー・ザ・シー」はとても楽しい曲に聴こえると思いますが、実は歌う側はキーが高くて大変なんですよ。高い方のG(ソ)をしょっちゅう、それも動きながら出さなければならないので、よっぽど(体幹の)支えがないと歌えない。稽古の最初の頃は息切れしていましたよ(笑)。これからももっともっと鍛えて、楽しく、楽に歌えるようにしたいと思っています。
――飯野さんは半世紀もの間、ずっと第一線で活躍していらっしゃいます。その秘訣は?
飯野 やっぱり体に常にいいエネルギーを貯めて、若返り続けるということかな。そうイメージしながら毎日トレーニングをしているし、食事にも気を使っています。だから薬やサプリを飲まなくても、病気知らずですよ。

【公演情報】『リトル・マーメイド』上演中~2013年12月31日分まで発売中。四季劇場「夏」http://www.shiki.jp/

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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