映画『ヒッチコック』が描く創作の裏側
映画『ヒッチコック』はヒッチコックの人生すべてを描ききった映画ではありません。ヒッチコックの人生においてターニングポイントになったと思われる時代と出来事をピックアップして描いています。それもなんと60歳くらいの時の出来事。普通なら定年退職するような年齢で、ヒッチコック監督は、自身最大のヒット作である『サイコ』を世に送り出しているのです。
でも、その作品が陽の目を見るまで、ヒッチコック監督は葛藤していました。その葛藤と創作のエピソードが、本作『ヒッチコック』の核なのです。
※原作は、スティーヴン・レベロ著「アルフレッド・ヒッチコック&ザ・メイキング・オブ・サイコ」(白夜書房刊)
1959年『北北西に進路を取れ』のワールドプレミア。『北北西に進路を取れ』は絶賛されていたけれど、ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)は記者から「もう60歳ですよね、いつ引退されるのですか?」と問われて不機嫌でした。46作品も世に送り出してきたヒッチコックだけれど、まったく引退する気などなかったからです。
さっそく次回作の構想を練るヒッチコック。彼はアシスタント(トニ・コレット)に「観客の意表を突く映画を撮りたい」と資料を集めさせていました。その資料の中のひとつに殺人鬼エド・ゲインの物語「サイコ」がありました。エド・ゲインに心惹かれていくヒッチコック。
ところが映画業界は『サイコ』の映画化を非難します。おぞましい物語を誰が見たいものかと、出資も断られてしまうのです。それでもどうしても撮りたいヒッチコックは、豪邸を担保に入れて自己資金で『サイコ』を撮る! と頑なです。
「資金も時間もなく、知恵を絞って映画を作っていた頃の楽しさや解放感を味わいたいんだ」
というヒッチコック。アルマ夫人はその気持ちを支持します。ところが撮影は難航、トラブル続き! ヒッチコックは、アルマ夫人を頼りますが、彼女に脚本家のウィットフィールド(ダニー・ヒューストン)が近づき、ヒッチコックは妻の浮気を疑うように……。
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