独自の“改良”で、Mの名に恥じないハイアウトプット
スタイリングから見てみよう。フロントマスクは、Mの定石通りの仕立てである。M3などと同様に、大きなグリルをキドニーグリルの受け皿のように開けて、その左右にエアインレットを配置した。エアインレットの下辺はエアダムデザインとされており、まん中を通ったフィンと相まって、実にMらしいマスクを実現していると思う。ちょっとファニーな1シリーズのマスクが、じつに精悍になった。次に目立つのは、18インチのMアロイ・ダブルスポークタイプホイールと、ダークシャドーメタリックに塗られたリアアンダーエプロンで、これもまたノーマルとはまるで違うオーラを放つのにひと役買っている。そのほか、フェリックグレイにぬられたミラーカバーや、ボディ同色のサイドスカートもまた、“特別な1”を演出するためのサポート役を果たした。
インテリアもまたエクステリア以上に使い勝手重視で代り映えはしない。とはいえ、その内容はスペシャルにふさわしいもので、ヘキサゴン×アルカンターラのトリムや、Mレザーステアリングホイール、アンスラサイトのルーフライナーなど、見栄えだけでも変化が多い。
なかでも乗り手の心を踊らせるのは、スピードメーターだ。マックス260km/h。このクラスのスポーツモデルとしては、何とも心躍る演出ではないか! スパルタンな雰囲気のインテリアが、乗り手の気分を加速した。
純然たるMモデルとは違って、専用に開発されたパワートレインをあえて積むことをせず、あくまでもノーマルラインナップ用のエンジンをチューニングアップして搭載するのがMパフォーマンスモデルの流儀である。
Mモデルといえばエンジン、というイメージは確かに大きいし、そこが肝心だと考えるBMWファンも多いことだろう。が、しかし、Mモデルの価格がそれゆえ“特別なもの”になってしまうのもまた、事実。まったくの専用開発ではなく、ノーマルラインナップ用をベースにMが独自の“改良”を施すことによって、Mの名に恥じないハイアウトプットを実現し、しかも価格を抑えることを目指した。
M135iに搭載されるN55型3リッター直噴直6ツインスクロールターボエンジンは、ノーマル用を大きく上回る、最高出力320ps/5800rpm、最大トルク450Nm/1300-4500rpmを実現した。クーリングシステムやエンジンマネージメント、サウンドチューニングなど、Mがこのクルマのために手を加えた箇所はエンジン本体以外にも多数見受けられ、冷静にみれば、Mパフォーマンスのコンセプトが、名よりも実をとっていることは、明らかである。日本仕様ではこれに、8速ATが組み合わされた。
アシ回りやステアリング関係にも専用チューニングを施す。ノーマルよりも10mmローダウンされた、Mスポーツに準ずるセッティングのアダプティブタイプを採用。可変スポーツステアリングも標準で搭載している。
18インチアロイホイールのその奥も注意深く覗いておきたい。ダークブルーメタリックに塗られたMのロゴ入りキャリパーと大径ディスクが目を引く。Mスポーツブレーキシステムだ。タイヤはもちろん、M135i用に専用開発されている。
MPAの重要な狙いのひとつは、Mの魅力をより多くのユーザーに知ってもらうこと、だ。マニアックにエンジニアリングの粋を極めたMモデルよりも、気軽に扱えることが重要になってくる。日本仕様として用意されたのがオートマチック仕様のみという事実には、確かにがっかりさせられたけれども、M135iの“性格と性能”を考えれば、合理的な選択だったと言える。
そのことは、パフォーマンススペックを比べてみれば明白で、たとえば、0→100km/h加速をみても、マニュアルミッションが5.1秒であるのに対して、オートマチックは4.9秒である。CO2排出量でも、ATの方が13g/kmも少ない値を実現した。オートマチックの進化=多段化は、名実ともにマニュアルトランスミッションを時代遅れのものとしたのだった。