「はたして真実の『愛』とは何か」を考えさせられる作品
『スリル・ミー』は、「愛」について、酸いも甘いもかみわけた大人の方々に、ぜひおすすめしたいミュージカル作品です。1920年代、アメリカで実際に殺人事件を起こした青年2人がモデルになっています。そういう意味で、殺人を暗示するシーンも出てきますので、苦手な方はご注意くださいね。
実行犯の2人は、IQ200もある超天才で、お金持ちのお坊ちゃまたち。しかも同性愛関係にあったといわれています。そんな何不自由ないはずの青年が、なぜ罪を犯したのか。
当時は「天才すぎて、ただスリルを味わいたいがためだった」とされたようですが、本作では、2人の心情を音楽で綴ることによって、破滅に向かう様を丹念に繊細に描いていきます。
「涙が止まらない」のは、きっと「愛が狂気に変わっていく様」をとつとつと見せられるからだと思うんですよね。相手を思う気持ちを仮に「愛」だとするならば、破滅に向かっているのは確実にわかってるのに、どうしても逆らえない。「愛」ゆえに、罪を犯す愚かさと切なさを、この作品は体現しているような気がします。
もちろん主人公の青年たちが犯した罪を、擁護する気も、美化するつもりは毛頭ありません。ただ、こういう歪んだ「愛」の形は、時として非常にドラマティックに昇華されるわけで、「はたして真実の『愛』とは何か」を改めて考えさせられる重厚さを備えているのです。
日本では、2013年3月に上演予定です。
■ミュージカル『スリル・ミー』