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トルコ観光地の絨毯トラブル

トルコの観光地で起きている絨毯に関するトラブル。気をつけていれば防ぐことができますが、相手もプロなのでかなりの用心が必要です。まずは絨毯詐欺がどういう種類の問題なのか、ここではその詳細を紹介します。

執筆者:安尾 亜紀

トルコ旅行の前に

スルタンアフメット

イスタンブールの観光メッカ、スルタンアフメットに多い絨毯トラブル

どの国にもある種の危険は存在するモノですが、トルコの場合、旅行者が最も気をつけなければならない問題の一つは、絨毯詐欺。この種の詐欺は事前に知っておくとかなり防ぐことができますが、全く知識がないと残念ながらプロの卓越した話術にはまってしまうことが少なくありません。

こうした絨毯詐欺、在イスタンブール総領事館に届けられただけでも年間十数件の被害があり、依然として減る傾向が見られません。こうした案件は日本に帰国してから明らかになるパターンがほとんどなので、そういう意味では、領事館に被害が届けられた数の陰にはさらに多くの被害者がいる可能性も。せっかくのトルコ旅行で嫌な思いなどしないためにも、ここでは絨毯詐欺問題の概要をお伝えしますので、事前勉強に役立ててください。

絨毯詐欺とは

トルコ絨毯

次々と広げられると、欲しくなってくる(本文と関係ありません)

トルコの絨毯は世界的にも有名ですが、価格帯が定まっていないのが旅行者にとっては難しいところ。細かい結び目、ハンドメイド、シルクだとそれなりに高いとは言われていますが、このほかに絨毯の産地、染料の質、織物技術など素人にはわからない部分で価格を決定する要素もたくさんありあます。このため、一概に「この大きさならいくら」「この材質ならいくら」というようにはっきりした値段を出すのが難しいのが現状です。

こうした事情を悪用しているのが絨毯詐欺商法です。典型的なものでは、まず観光地で客引きが話しかけてくる、色々親切にしてくれる(お茶や食事をおごってもらう、観光地を案内してもらう、など)、そして最終的には絨毯店に連れて行かれ、そこで法外に高い絨毯を売りつけられる、というパターン。納得して購入した場合はいいのですが、時には強引に購入させられることもあり、その上日本に帰国して鑑定してもらうと、実際の価値はその10分の1や20分の1でしかなかったということがわかり、ここで初めて詐欺にあったことが判明するのです。

ただここで問題なのは、前述したように絨毯の相場を判断するのが難しいこと。またトルコの商売方法として、例えば実質3万円の物でも、最初は8万円あたりから価格交渉をスタートし、最終的に3万円になることを想定するものもあります。これが前提になっていると、最初の言い値は高めなのが基本。全く交渉せずに購入してしまうと、どうしても高めになってしまうものなので、それをどう判定するかという難しい問題も含まれています。

ただ、いくら価格については判断が難しい商品だとしても、10万円が300万、時には一千万円というように法外に高値である場合は明らかに詐欺。 さらにトルコで問題なのは、どういう形でその絨毯屋を訪れ、購入に至ったか、というところ。下記詳細パターンを読んで、旅行前の参考にしてください。

ショップに連れ込まれるまで

絨毯露天

道端に商品を広げる絨毯露店(本文と関係ありません)

「トルコで絨毯も買いたい」と最初から思っている人はあまりいないもの。ほとんどの人は初め絨毯には興味がないものの、旅行中にお店で美しい絨毯を次々に見せられて、思わず買いたくなってしまった、というパターン。つまり、売り手から見ればその絨毯の魅力を見てもらうためにまずはショップに来てもらいたいのが第一の心情で、逆に消費者側から見れば、お店に入ってしまったら最後、ということなのです。

市場のトルコ人

一般的にトルコ人は人なつこいものの、外国人にしつこく言いよったりしない(本文と関係ありません)

ここで大活躍なのが客引きたちです。観光スポット目白押しのスルタンアフメット地区は、基本的に地元トルコ人よりも外国人旅行者の方が多いエリアですが、ここで何をするわけでもなくブラブラしているトルコ人のほとんどは客引きの可能性が。道で立ち止まって地図でも見ようものなら、「どこに行きたいですか?」と話しかけてきます。女の子2人組なら、必ずトルコ人男性2人が話しかけてくるのが通例。ただし警戒心を解くために大学生風の女子の客引きもいれば、歳をとったやさしげなおじさんの場合もあります。「今何時?」「あ、落ちましたよ」「ちょっとお茶だけ飲まない」「話すだけ」「案内してあげるよ」「日本語を勉強しています」「芸術学部の学生で、ギャラリーに作品を出しています」など誘い方は様々。普通のトルコ人はとてもシャイで、見ず知らずの外国人をいきなり食事やお茶に誘ったりするようなことはほとんどありませんので、スルタンアフメット地区で話しかけられても相手にしないのが一番いいかもしれません(残念ですが)。

ここで大切なのは、興味がない場合でも微笑みながら「いえいえ~」と対応してはいけないということ。とんでもなく失礼になっても全く構わないので、完全に無視する、もしくは怒りをあらわにするぐらいの断固とした態度で対応することがとても大切です。

これ、人間関係を穏やかに進めていきたい傾向の日本人にはなかなか難しいことですが、仮にトルコ人女性が同じような目に遭った場合、まるで犬でも追い払うように「あっちに行きなさい! 失礼な!」と怒鳴りちらします。この反応の激しさと比較すると、日本人のやんわりした断り方などトルコ人には全くNoの意味をなしません。日本人の「いえいえ~」は、客引きにとって「押せば行ける」というサイン。その後も諦めずにしつこく話かけられることになります。しつこくすると、断ることに疲れ果てて最終的にはOKしてしまう、という日本人の性格を熟知していることもあるからです。

また、完全に無視する人に対しては「せっかく友達になりたいと思っただけなのに、失礼な」とか「話しかけているのに無視するのはどういうことだ!」と怒り始める客引きも少なくありません。これは日本人が穏やかな人間関係を好むため、そのような怒りに対して罪悪感を持ってしまい、たいていはそれを収拾させるために話に応じてしまう、という民族性を利用しているだけ。怒られても決してめげないように!

信頼を得るために

観光案内所

スルタンアフメットの観光案内所。周りに客引きが待機していることも

客引きは、最初から自分を客引きだとは言いません。話しかけて来て、最初は根掘り葉掘り事情を探ってきたり(滞在ホテル名、滞在期間、日本での出身地、仕事など)、身につけているものから経済状態を判断したりした上で、しばらくは一緒に観光したり、お茶や食事をおごってくれたりします。この中で「日本人の友達がいる」というような話を出してきて親密感をアピールすることも忘れません。ただ、ここでおごられるなどして親切を受け入れてしまうと、後から「ギャラリーに来てくれ」とか「絨毯を買ってくれ」と言われた時に断りにくい状態になってしまいますので、できれば観光地で話しかけられた人の親切は受けないのが基本です(自分に関する情報をさらすのも危険です)。せっかく海外旅行に来たのだから、現地の人とも仲良くなってみたい、というのはごく自然な感情なのですが、残念ながら観光地で話しかけて来た人たちはプロの客引きである場合がほとんどなので、その親切の裏にはとんでもない意図があるものなのです。

中には1週間ぐらいずっと観光に付き合ってくれる客引きもいます。この中である程度の情も芽生えるでしょうし、一緒に時間を過ごしながらトルコの文化や地元の人の考え方などを垣間見るチャンスも生じ、それなりに楽しい時間が過ごせると思います(女性が相手の場合はこの段階で恋愛詐欺に発展して行くことも多いようですが、客引きの多くは既婚だったり、時には何十人も同様の恋人がいる)。しかし、こうしたサービスもたいていは他の客引きに取られないため、もしくは他のトルコ人に余計な入れ知恵をされないために張り付いているという目的があるようです。親切をされても断固として拒否し、怒ってしまったらそれはそれで構わないという心構えを大切にしてください。

絨毯購入

こうした客引きが最終的に絨毯店に観光客を連れていくと、今度は本人の身の上話が始まることも。「ヴァンの大地震で家族が大変なことに……」「兄弟が人身事故を起こしてしまって……」という悲劇ネタから、「僕は少数民族だけれども差別にめげず、努力してここま這い上がってきた」という辛抱人生の話などパターンは色々ですが、これはその後売りつけてくる絨毯商談への土台作り。その上で、あらかじめその場に小道具としておいてある絨毯について「これは特別な場所から来た特別な絨毯で、私の宝物だけど特別にあなたに提供したい」と持ちだします。それまでに一緒に過ごした時間、受けて来た親切、話の中でちりばめられた土台が効いてか、こういう状況下で断れる人はなかなかいなく、その辺がプロの客引きたちの怖いところ。

また、最近新たに増加しているパターンとしては「この絨毯をあなたにプレゼントしたい」といいつつ、関税関係の書類のためにカードを切らせてほしいとか、税金分だけ払ってほしい、とかなりの金額をカードから引き落とすことです。ここまで来ると明らかにクレジットカード詐欺。関税書類のためにクレジットカードを機械に通したり、税金だけを支払わせるなどという話はまずあり得ません。そもそも絨毯屋が観光客に高額商品をプレゼントする、ということは地球がひっくり返ってもありえないということをしっかり頭に入れておきましょう。

また、一度買った絨毯を後からキャンセルしたい場合も、税金だけは払ってほしい、といわれることが多いのですが、トルコの法律では購入後7~30日以内(条件により異なる)であればレシートと共に全額返却してもらう権利があります。購入後のキャンセル業務では必ず税金も含め返却してもらうようにしてください。

クレジットカードスリップ

引落ができなかったカードのスリップ。7,97TLの下にISLEM BASARISIZDIRと書かれている

一方、中にはクレジットカードを2重清算するという悪徳ショップもありますので「うまくいかなかったのでもう一度暗証番号入れてみて」と言われても、そう簡単には応じないように。引落が無効だった場合は、店は無効であることを示すクレジットカードのスリップを消費者に提示するのが常識です。無効だったスリップの最後の行には、分かりやすい形で“***ISLEM BASARISIZDIR***”(業務無効)と書かれていますので、必ずこれを確認しましょう。

トイレに行っている隙にカードを盗まれる事件もありますので、貴重品にも要注意です。

最悪の場合

ショップでは奥の個室に通され、チャイを飲みつつソファの両端をトルコ人男に挟まれる、というケースも少なくありません。こうした半・監禁状態の圧力下で、いくら絨毯を買う気がなくても「解放してもらえなかったらどうしよう」という恐怖感で購入している人もいるようです。カードの限度額が足りなければ、平気でカード会社に電話をさせて限度額を引き上げさせたりもします。女性の場合はこうした状況下でレイプ被害に遭うケースも報告されていますし、さらにこうした個室には隠しカメラが設置されており、トラブル後にこのビデオを元に恐喝されたり裁判で利用されることもありますので、行動には注意し、とにかく客引きについていかないこと、これが大原則です。

被害に遭ってしまったら

ZABITA

スルタンアフメット地区をパトロール中のザブータ

では、実際に被害に遭ってしまった時にはどうしたらよいでしょうか。

まず、トルコ国内で気がつくことができた場合は、警察に被害届を出すことが最重要課題。これは、帰国後にクレジットカード会社にキャンセル処理を要請したり、裁判沙汰になった場合に非常に有利になります。といっても、トルコの警察は常に忙しく、あまり気持ちよく対応してくれるとも限りません。これはかなり大変で気が滅入る作業ですが、ここで被害届を出さないと後から様々な面で不利になってしまう可能性があるので、なんとしてでも被害届を受理させることが大切です。

Polis

同じくパトロール中の警官

スルタンアフメット地区では同様の問題が多発しているため、警察のパトロールが頻繁に行われています。管轄はシルケジ・ポリス・メルケジ(Sirkeci Polis Merkezi=シルケジ警察署)になっていますが、ここは基本的に英語が通じません。地下宮殿向かいにある観光警察署であれば日本語や英語が話せる職員がわずかながらいるので、在勤の時であれば話が通じる可能性がありますが、ここには捜査権がないので、管轄の警察に案件を引き継ぐのみとなります。一方、絨毯詐欺の苦情を訴える先として、ザブータ(ZABITA)と呼ばれる商業行為を取り締まるのが専門の警察もあります。

Tekfen

レベント地区にある日本総領事館が入っているテクフェンビル(©moveanddstay)

この他、相談先として在イスタンブール総領事館に行くこともお勧めです。総領事館では過去に起きた同様の事件を数多く扱っていますので、対応策など指南してくれるかもしれません。ちなみに総領事館のサイトでは通訳者リスト英語が通じる法律事務所のリストも公開していますので活用してみては。

一方、万が一日本に帰国してからこうした被害に気がついた場合は、まずはクレジットカード会社に事情を説明し、引落のキャンセルを要請しましょう。45日以内であれば照査してもらえますし、被害が続出している店舗の場合だと対応してくれる会社もあるようです。

残念ながら現在のトルコは法整備がきちんとしておらず、こうした問題が多発しているお店に対しても国が営業廃止処分などの命令を下せないという問題があります。警察に訴えても、少額の罰金ですぐに出てきてしまうし、悪名高い店舗については建物を改装したり名前を変えたりして、また同じことの繰り返し。こうして、ほんの一部のお店で起きているトルコの絨毯問題が長年解決されないままになっているのが現状なのです。

まずは私たち旅行者が気を引き締め、客引きについていかない強い意志を持つことが大切です。

トルコ絨毯についての一般情報はこちらから>>>絨毯・キリム/トルコのお土産

<各連絡先>
イスタンブール日本国総領事館
住所:Tekfen Tower 10th Floor, Buyukdere Cad. No:209, 4.Levent(メトロLevent駅)
TEL:0212-317-4600
緊急電話:0212-317-4664

■シルケジ警察署
住所:Hocapasa Mah. Istasyon Arkasi Sok. No:5, Sirkeci(シルケジ駅舎裏Istasyon Arkasi通り)
TEL:0212-522-2670

■ファーティヒ地区ザブータ
住所:Sultanahmet Mah. Seyit Hasan Sok. No:3, Sultanahmet, Istanbul
TEL:0212-517-0202

(取材協力:在イスタンブール日本国総領事館)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※海外を訪れる際には最新情報の入手に努め、「外務省 海外安全ホームページ」を確認するなど、安全確保に十分注意を払ってください。

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