クライスラーのポーランド製“イタリア車”
テレビをみていて、卒倒しそうになった。アナウンサーが、“アメリカ車も本格的なコンパクトカーを造る時代になった”とかなんとか生真面目に語りながら指差している先に、ボクのアタマのなかでは典型的なイタリアンカーとなっている小粋なハッチバックがあったからだ。“クライスラーイプシロンは……”とアナウンサーが説明を続けている。そうか、そうだった、ボクのよく知るランチアイプシロンは、日本ではクライスラーブランドで売られるんだった。
自動車産業は、言うまでもなく、“グローバル”である。日本のブランドだって、世界中で造られている。
昨今の自動車産業では、OEM生産が常識となっている。プジョーだって三菱のクルマを売っている。
だから、イタリアの上級ブランドで、ポーランドで造られる小型のランチアが、アメリカの匂いぷんぷんのクライスラーバッジを付けて、日本市場で売られた、としても、何ら不思議じゃない。そういう世の中である。
でもなあ、“アメリカのメーカーも本格的に力を入れはじめた”って言われるほどじゃあ、ないと思うけれど……。まあ、クライスラーもメキシコ工場でフィアット500を造りはじめたことだし、これがコラボレーションのシナジー効果だと言われれば、納得するしかないんだけれど、何だかなぁ。
要するに、フィアット・クライスラーブランドは、こう決めたわけだ。ランチアはヨーロッパローカルブランド、クライスラーはグローバルブランド。だから、イプシロンと同時に発売されたアッパーミドルセダンのクライスラー300は、これもまたベース設計は2世代前のベンツとフクザツな背景があるけれども、イタリアではランチアテーマとなる。ちなみに、ダッジもまたアメリカ市場専用のローカルブランドになるようだ。
ランチアファンが怒るだろうよ、と思うのは、どうやら好き者だけらしい。そもそも、モダンランチアの歴史など、日本ではとうの昔にすたれてしまっている。ガレーヂ伊太利屋が“ランチアの灯を消すな”とばかり、孤軍奮闘、頑張ってはくれていたけれども、多くの日本人にとって、ランチアといえばせいぜいデルタやテーマ、ひょっとするとストラトスくらいで思考停止になっているに違いない。
なので、このクライスラーバッジとグリルを付けた、ランチアイプシロンも、ちまたでは、どうやらクライスラーの小型車としてすんなり受け入れられているようだ。場合によっては、PTクルーザーの後継がダウンサイジングでついに登場、なんて前向きに捉えられている節さえあって、まあ、それならそれでしょうがないか、と冒頭のアナウンサー氏を責める気も失せた。