“日本型”の投資信託とのつきあい方を考える
自分がわからないものには手を出さないというのも投資の鉄則
「ですが、リーマンショック以降、株式も世界経済も長期で上昇し続けるというストーリー自体が崩れつつあるともいわれます。新興国では経済成長が続くにしても、年10%といった成長が何年も続くことは期待しにくくなっているのが現状です。だとすれば、新興国への投資であっても、長期投資というだけでなく、タイミングを見て売り時を考える投資に変わる可能性もありうるでしょう」
事実、日本では、投資信託であっても、株式と同じように割安な時に買い、ある程度のリターンを得たら売るという使い方をする個人投資家も少なからず存在します。つまり、利益は取れるうちに取るという考え方です。そこには、1990年代の不動産バブル崩壊以降、経済が縮小し続け、株価も右肩下がりに下がってきた、日本ならではの事情も影響している可能性があります。
時間を分散しながら購入し、長期にわたって投資信託を保有するスタイルを“アメリカ型”とすれば、安く買って高く売るスタイルは日本独特の“日本型”スタイルといえるかもしれません。
「アメリカ型を是とするのであれば、日本型は間違っているのかもしれません。ですが、投資信託は、個人投資家にとって投資しにくい資産を投資信託を通じて提供したり、本来流動性の少ない資産を投資信託を通じていつでも売却できるようにするなど、投資家のニーズに応える役割も担っています」
日本では投資信託そのものも、投資信託とのつきあい方も、独特の発展を遂げつつあるのかもしれません。
投資目的やライフステージに適した商品選びがますます重要に
投資信託のなかには、しくみの複雑なものも存在します。それを理解せずに投資すると、思わぬ損失を被ることにもなりかねません。「投資信託は、自分の投資目的にあった商品を選ぶことが、ますます重要になってくるでしょう。たとえば、これから資産を形成する若い世代には毎月分配型ファンドは適さないものですが、若い世代でも余剰資金の一部を使い、タイミングをはかって投資したいという投資家の方もいるでしょう。一方、年金生活をするシニア層で、毎月分配型ファンドの分配金をプラスαの生活費と考えている人にとっては、分配金の増減が激しすぎると日々の生活にも影響が出かねません。そのような人たちは、安定的な分配が期待できる商品を選ぶことが大切になってきます」
ライフステージのどの段階にいるか、そして自分の投資目的を明確にしたうえで、投資信託とのつきあい方を変える必要もあるのです。そのためにも、それがどんな商品なのかをしっかり理解したうえで、つきあうことが重要になります。
「投資対象が何か、どのくらいのリターンが期待できるのか、分配頻度はどのくらいか、そしてリスクはどのくらいあるのかなどをしっかり確認しましょう。なかでも、リスクは重要な要素です。その投資信託のリスクを知ることはもちろん、自分がどのくらいのリスクまで耐えられるのかを知ることも不可欠です。標準偏差などの数字を見てもピンと来ないなら、たとえばリーマンショックや欧州危機の時にどのくらい下げたのかをグラフなどで確認してみましょう。日々の生活資金やご自身の資産設計計画が、そうした事態に耐えうるかどうか、投資を決定する前に考えてみる必要があるでしょう」
そして、わからないものには手を出さないこと。月並みですが、投資信託とつきあううえでは、これが非常に大切です。
取材・文/大山弘子
教えてくれたのは……
藤原延介さん
藤原延介さん
ドイチェ・アセット・マネジメント
企画部、ファイナンシャルストラテジスト、ヴァイスプレジデント
三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)の国内・海外マクロ経済調査及び株式運用担当、リッパー・ジャパンのマーケット・アナリストなどを経て現職。