シフトアップ時の前のめり感、力強さが増してゆく
ミュンヘン空港のドまん中、普段は旅行客や買い物客で賑わう広場に、赤、黄、緑、青、白、と、正に色とりどりのGTスピードが並べられていた。なるほど、パッと見にはたいして代り映えしない。21インチホイール、V8よりわずかに明るいダークグリル、ボディサイドのW12エンブレム、そして、内部にスパイラル加工を施したエンドパイプがかろうじてベースモデルとの違い、GTスピードであることを主張するに留まる。何度もいうけれども、ボクはこれでいいと思う。元来、高級車にグレードは要らない、が持論だからだ。この手のクルマは、ビスポークで何とでもできる。人と違うクルマが本当に欲しいのであれば、ビスポークという名の創造力で差をつけるのが本筋だ。与えられた素材にただ文句を付けているようじゃ、真の高級車乗りにはなれない。ド派手な構えのコンチネンタルGTが本当に欲しいというのであれば、本社に“いますぐGT3のロードカーを造れ、金はナンボでも払う”と直談判すればいいだけのこと。ヨーロッパの高級車メーカーに、やってやれないことは、たぶん、何もない。
アップルグリーンという、なかでも強烈なボディカラーの個体に迷わず乗り込んだ。ボディカラーひとつで、他人との違いを演出できるという好例だろう。この色なら、スピードであろうとなかろうと、クルマ好きの注目を集めるに違いない。
新しいエグゾーストシステムを通じたW12ツインターボの唸りが聞きたくて、オートマチックレバーを最も下段のSにした。Dレンジに比べ、明らかに天晴な、野太い響きが聞こえてくる。
まずは、ダンピングコントロールを最もコンフォートにしてゆっくりと走り出す。乗り心地は、明らかにフラットで硬め。けれども、ベントレーらしい豊かさ、とやわらかさを失うほどじゃない。
色が色だけに、まわりのクルマが気を遣ってくれているのが手にとるように分かる。いきなり、アウトバーン速度無制限区間へ。たまらずフルスロットル!
速いんだか速くないんだか、ほとんど分からないうちにメーター読みで250km/hを超えてゆく。まったくもって安定しているので、恐怖感などまるでない。感覚的には、フツウのドイツ車で200km/hくらいのイメージだ。
事実、試乗会パートナーのドライブで助手席に座っているときだって、けっこうスピードが出ているなと思い、“今、220くらいで走っている? ”と軽く聞いてみたら、“270です”と言われ、たいへん驚いた。なるほど、だから、加速と流れる景色が新幹線のそれとよく似ていたのか……。
ZF製8ATを採用。W12エンジンに合わせて設定され、常に理想的なエンジン回転数としトルクを最大限に発生させるという。また、8速から4速などの切り替えを瞬時に行うブロックシフティング・テクノロジーなどを備えた
高速走行時の安定感は、ベントレー史上最高と言っていいだろう。週末間近で意外に交通量が多く、残念ながら330km/hはおろか、300km/h達成すら叶わなかった。けれども250km/h前後の安定感から想像するに、旧型GTスピードが280km/hでクリアした、フランクフルト近郊の高速右コーナーなら、300km/h近くでラクに回っていんじゃないか。
ふたたびのコンチネンタルロングドライブにチャレンジしたくなってきた。