重要視すべきは“内面”の磨き上げ
かれこれ4年以上も前の話だが、ゲンロクというラグジュアリィカー雑誌の企画で、ヨーロッパ大陸をベントレーを駆って走り回ったことがある。本社のあるクルーで先代コンチネンタルGTスピードを借りだし、一路ポーツマスまで南下。フェリーに乗って、その名のとおり(もちろん、由来もそれである。初代コンチネンタルはイギリス貴族の大陸ツアラー願望を満たすクルマだった)、ヨーロッパ大陸を目指し、大陸(=コンチネンタル)を“猛スピード”で駆け巡ったのだ。フランス、スイス、オーストリア、チェコ、ドイツ、オランダ、ベルギー、そして往きと帰りのイギリスを併せ、つごう欧州8カ国のドライブは、実に総計4200kmにも及び、広報車を管理するスタッフを慌てさせたものだ。
12年秋。ボクは再び、2世代目となったコンチネンタルGTスピードを駆って、アウトバーンの速度無制限区間をかっ飛んできた。
ミュンヘンとザルツブルグ(オーストリア)付近との往復だったから、距離にして4年前のたった十分の一程度ではあったけれども、あの素晴らしい経験を色鮮やかに思い出すには、充分すぎる距離である。ましてやそのパートナーが、ほとんど旧型における最高峰であったコンチネンタルスーパースポーツ級の性能を得た、最新版の進化したGTスピードということになれば……。
ウッドと金属を用いたラグジュアリーなインテリア。パネルのウッドやアルミ、カーボンなど、内外装共に多くの選択肢が用意される。シートやトリムにはダイアモンドキルト仕上げのレザーを採用。ヘッドレストにはオプションでロゴの刺繍も入る
だったら、いくら性能が上がっているといったって、そもそものパフォーマンスも十分(これは確かにそうだ! )なのだから、別に要らないんじゃないか……。そう思われても不思議じゃない。けれども、ボクの考えはちょっと違う。
本来、ハイエンドブランドというものは、むやみにその姿カタチを変えてはいけない、と考えるからだ。
その変化は、なければいけないけれども、できるだけ漸進的であった方がよく、そうでなければ、真のオーナーシップからの信頼が得られないように思う。なぜなら、急激な変化には必ず、古い存在への否定的要素が含まれてしまうからだ(ダメだったって認めたからこそ変える、という理屈)。ベントレーやロールスロイス、アストンマーティンといった、ある意味、英国貴族趣味(=時間の流れが遅い)を魅力の根底にかくまったハイエンドブランドは、なおさら、そう易々と歴史を否定するわけにはいかない。
絶対に変わるな、ではない。慌てるな、時間をかけてそれらしく変わっていけばいい、ということ。そもそも旧型コンチネンタルGTのカタチに、オリジナリティが既に力強くあるのだから……。普通のクルマのモデルチェンジと同列に語ってはいけないと思う。
それよりも重要視すべきは、内面の磨きあげだろう。真の貴族が、精神世界における人間性の向上を目指したのと、それはよく似ている。
新型コンチネンタルGTスピードのナカミについて、語ろう。話題の中心は、エンジンアウトプットである。旧型ベースのスーパースポーツまで残り5psに迫る最高出力と、まったく同じ800Nmというビッグトルク。加えて、8速オートマチック(これを機に他のW12エンジン搭載車にも与えられた)の存在が、走りへの期待をいやが上にも盛り上げる。
パワーアップに併せて、もちろんアシ回りにも専用チューニングが施された。前作と同様に車高はベースモデルにくらべ10mmローダウン。ダンピングコントロールやサーボトロニックのステアリングといった電子制御の最適化はもちろんのこと、ネガティブキャンバー量は15%増やされ、スプリングレートもフロントで45%、リアで33%それぞれアップ、ブッシュ類の硬化ももちろん実施された。足元に光るのは、21インチのアロイ鍛造ホイール+専用チューニングのピレリPゼロ。
前作では、ベントレー初の時速200マイル(320km/h)オーバーという“スピード”にこだわった。結果、最高速はそのときすでに326km/hを達していたが、今回の“スピード”の挑戦は、330km/h超え、である。この実現に最も寄与したのが、徹底した空気の管理、つまりはエアロダイナミクスの追究だった。それは表面的なものだけでなく、車体裏面の空力構造にも多くの工夫が凝らされている。
加えて、“エンジンを効果的に冷やす”ための空力も考慮されている。フロントマスクの、この強面な表情は、なにも前方車両を威嚇するためだけのものじゃない。空気を大量に吸い込んで、エンジンを常に“冷やしておく”ための工夫に満ちたデザインなのだ。