ヨーロッパの馬が戸惑いを見せるペースの問題
芝が長く深いためタフなレースになり、日本より遅いタイムでの決着が多いヨーロッパの競馬。凱旋門賞も同様なのですが、しかし、2011年の凱旋門賞は別。この時のフランスは連日好天が続き、30度前後の気温で地面がすっかり渇いたため、芝コースはとても堅く、いわば日本の競馬場に近いスピード優先のコンディションになりました。その結果、2分24秒49という、凱旋門賞史上もっとも早いタイムでの決着。勝ったのは、ドイツのデインドリームという馬でした。そのデインドリームが、直後のジャパンカップに参戦。凱旋門賞で見せたスピード能力から、日本の堅い芝コースにも対応できると見られていたのですが、結果は6着。実はこの敗因に、日本とヨーロッパにおける、もう1つの大きな違いが関連しているのです。
その違いとは、レース前半のペース。スタートはゆったり出て、レース前半はどの馬もゆっくり体力を温存し、中盤から徐々に加速していくのがヨーロッパの競馬。対して日本のレースはスタートから前半までのペースが早く、最後まで一定のスピードで乗り切ろうというスタイル。この違いが、ヨーロッパの馬を戸惑わすのです。
デインドリームは、ヨーロッパのレースに出ていた時、スタートからそれなりに早いペースを維持し、集団の前方につけて最後に抜け出すスタイルを取っていたのですが、ジャパンカップでは、日本馬がそれよりもずっと早いペースでスタートから走るため遅れを取ってしまい、集団の後方に位置するという不慣れなレースに。自分の得意な形に持ち込めないままレースを終えてしまいました。2011年の凱旋門賞もジャパンカップもレースタイムはほとんど同じなのですが、ペース配分が違うため、デインドリームは敗れてしまったんですね。
もちろん、何度か日本のレースを経験すれば、馬もペースに慣れて、結果が変わることもあるでしょうが、一発勝負となると、このペースの違いが大きな影響を与えるのです。
なお、日本の馬がヨーロッパのレースに参戦した時は、逆の現象が起きます。2006年の凱旋門賞に挑戦した日本のディープインパクトは、普段レース前半はゆっくりと集団のほぼ一番後ろでスタミナを温存し、最後に一気に加速するスタイル。しかし凱旋門賞では、ヨーロッパの馬の前半のペースが日本馬より数段遅いため、いつもと同じ感覚でスタートしたディープインパクトはあれよあれよと先頭集団を走ることに。不慣れなレーススタイルとなったこともあり、3着(後に失格)に敗れてしまいました。
それぞれが得意なレーススタイルを持っている競走馬にとって、前半のペースの違いは、レース結果を左右する大きな問題になるのです。
細かな理由は他にもありますが、世界一の馬がジャパンカップで苦戦する代表的な理由は、「芝」の違いと「前半のペース」の違い。しかしそれこそが競馬というスポーツ。たとえばアメリカでは、芝コースよりも砂主体のダートコースがメインですし、前半のペースも日本よりさらに早いです。このように、色々な環境のもとで強さを競うのが競馬の特徴といえるでしょう。
世界一の馬が来日する際は、このような“違い”を意識しながら、レースを観戦してもらえればと思います。
(リンク)
JRAホームページ|今週の注目レース‐ジャパンカップ
第19回ジャパンカップ(1999年) -JRAホームページ|データファイル
第31回ジャパンカップ(2011年) -JRAホームページ|データファイル