師弟3人のチョコレート作品が会場に集結!
国立科学博物館「チョコレート展」で出会えるチョコレートの工芸作品の中でも、埼玉県春日部市の「菓子工房オークウッド」オーナーシェフ・横田秀夫氏のものは、大きな見どころの一つです。横田シェフの作品は、博物館にも収蔵展示されている「シーラカンス」がテーマですが、単に一匹のシーラカンスを作られたのではなく、太古の海を自由にイメージした世界が、ショーケースの中に広がっているのです。そんな横田シェフは、新宿のホテル「パークハイアット東京」のシェフパティシエを1994年のオープニングより約10年務められた方ですが、二代目シェフとなられた野島茂氏、2011年まで三代目シェフを務められた川内唯之氏と、三代に渡る師弟関係にある御三方の作品が、この会場に揃っているのです。またと無いこの機会、ぜひ各作品を見比べてみてください!
原始の姿をとどめていると言われる怪魚「シーラカンス」。横田シェフの作品は、そんな迫力ある魚をメインに、三葉虫やアンモナイト、珊瑚やイソギンチャクのような海洋生物を配し、古代の海を表現しています。シーラカンスだけで15kgほどの重さ。作品全体には、50kgほどのチョコレートを使用しているそうです。ショーケースの大きさは120cm×80cmと、5人のパティシエの方々の作品の中でも、最大サイズとなります。
形を作るのには、溶かしたチョコレートに水飴とシロップを加えた「プラチョコ」と呼ばれるものを、一晩寝かせて使っています。これによってチョコレートを粘土のような状態で扱うことができ、パティシエの仕事の中でも、これで飾り用のバラの花を作ることなどもある素材です。
大まかな部分は手で成形し、細かい部分は「マジパンスティック」と言われる、人形や動物などのマジパン細工を作るためのプラスチックの棒で形を作っています。シーラカンスの鱗模様は、皮細工の職人さんが使う金属製の型押しの道具でつけたそう。よく見ると、エラの近くは模様が大きく、尾に近づくにつれ小さくなっています。型の大きさが4つあり、それらを組み合わせて、自然な大小の差をつけていったそうです。
イソギンチャクの成形を目の前で見せていただいたところ、上のひらひらした部分も、指でのして、マジパンスティックで模様をつけたり切り込みを入れたりして、たった30秒ほどで作ってしまわれるから驚きです!表面にカカオバターで溶いた色素を少し吹き付けて、ラメ入りのパウダーを筆でほんのり刷いて完成させます。
製菓の国際コンクールでも、様々なチョコレート細工の作品が出品されますが、横田シェフは、あまりカラフルに色を付けたものよりも、チョコレートそのものが持つ重厚な色や質感を活かした作風がお好きだそうです。
「作品」というよりは、一つの「世界観」のような、まさに横田ワールド。一体、どのように作っていくのでしょうか?
「一番最初は、シーラカンスの画像をインターネットで調べはしたけれど、見比べて本物に似せて作るのではなく、頭の中にベースのイメージを入れてしまう。そこからは、チョコレートをどう加工していけばあの形になるかと、既存の技法に沿ってやっていきます。」と横田シェフ。
でもそれができるのは、あらゆるチョコレートの技法を研究し尽くし、ご自身の引き出しとして持っていらっしゃる横田シェフだからこそ。たとえば、海のゴツゴツした岩礁を表現するには、ピストレと呼ばれるカカオバターを霧状に吹き付ける技法を使い、その上からココアパウダーを振る。それを刷毛で払い指でこすって落とすといった過程を経て、まるで本物の岩肌のような質感が現れます。赤い珊瑚を作るには、粘土状のホワイトチョコレートで木の枝状に広がった土台の形を作り、そこに溶かしたホワイトチョコレートを何度も重ねて絞って太く肉付けし、固まったら後から赤い色素を吹き付ける……といった具合です。
横田シェフを師範と仰ぐお二人のパティシエ、野島氏と川内氏の所へ取材に伺った折も、横田シェフがどんな作品を作っていらっしゃるのか、とても気にされていました。そして、頭の中のイメージを元に作るという師匠の言葉に、「横田シェフはやはり特別!」と改めて脱帽されたご様子。けれども、そんなお二人の作品もまた素晴らしいものです。次のページでご紹介します!