松田青子さん
――みんな好きなものを武器にして、見えないところで職場の不条理と闘っているんだということが描かれている。口には出さないんだけど。
松田 例えば、最近SNSが流行っているじゃないですか。誰でも思っていることが簡単に書けるんだけれども、タイムラインにあらわれない、黙っている人の気持ちがないみたいに見える。そのことに、わたしはすごく違和感があって。何も言っていない人の気持ちもちゃんとここにあるんだということを書きたいなと思いました。
作中にも書きましたけど、声に出せなかったとしても「おかしい」と思い続けた人がいたから変わったことってあるんじゃないかと。誰かが「おかしい」と声をあげたときに、同じように「おかしい」と考えている人がいなければ、その声は広がらないじゃないですか。だから声をあげた人の言葉も黙っている人の言葉も同等に大事なんです。
「論考」を頼まれたはずが……
――幕間に挿入される「ウォータプルーフ嘘ばっかり!」シリーズもすごくおもしろかったです。コントのような、散文詩のような作品ですが。
松田 これは初めて「早稲田文学」に掲載された作品なんですよ。編集者の方がわたしのエッセイを読んでくださって「女性的なアイテムについての論考を書いてください」って。タイツについて書いたエッセイだったからなんですけど、わたしは女性的なアイテムの権威じゃないし、わりと枚数が多かったので「こんなに書くんすか?」みたいな感じで(笑)。どうしようと悩んで書いたのが、「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」なんです。けっこう送るのに勇気が要りました。
――論考を依頼して〈嘘ばっかり! 嘘ばっかり! ウォータープルーフ嘘ばっかり!〉〈いつまでも女の子女の子言うんじゃねー!〉〈こちとら30過ぎてるっつうの!〉とか書いてあったらびっくりしますよね。勇者だ(笑)。
松田 ダメだと言われたら普通に書きなおすつもりでしたけど、返事が来るまで心臓に悪かったですね。幸い気に入ってくださって、その後シリーズが続きました。