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『工場』小山田浩子インタビュー

「さいしょの1冊」をテーマに話題の本の話を聞きます。第2回のゲストは、小山田浩子さん。初めての単行本『工場』について語っていただきました!

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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いきなり三島賞候補になった『工場』

 

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小山田浩子(おやまだ・ひろこ)1983年広島生まれ。2010年「工場」で第42回新潮新人賞受賞。2013年、単行本『工場』が第26回三島由紀夫賞にノミネートされた。他の作品に「うらぎゅう」(「群像」2013年4月号掲載)、「いたちなく」(「新潮」2013年7月号掲載)など。広島県在住。

初めての単行本でありながら三島由紀夫賞にノミネートされ、惜しくも受賞は逃したものの、選考委員の町田康に絶賛された『工場』。「メッタ斬り」シリーズで知られる書評家、大森望と豊崎由美も、2013年上半期に本が出た新人賞受賞作家の中で一番おもしろかったと太鼓判を押しています


第42回新潮新人賞を受賞した「工場」と「ディスカス忌」「いこぼれのむし」の3編を収録。表題作は、何を作っているのかわからない巨大な工場で無意味に見える労働(書類をひたすらシュレッダーにかける、コケを育てる、同じような内容の文書を何度も校正する)に従事している男女の日常を密度の高い文章で描いています。働く人の目を通して見る世界のいびつさが恐ろしくも可笑しい作品です。

 仕事と世界の関係がわからない

――どうして小説を書くようになったんですか?

小山田 子供のころから本を読むのが好きで自分でお話を作ってみたこともあるんですけど、小説といえるものを書くようになったのは、夫にすすめられたのがきっかけです。

――旦那さんはなぜ小説を書くことをすすめたんでしょう。

小山田 夫は私が最初に就職した編集プロダクションの先輩でした。一緒にローカルな雑誌を作っていたんですけど、私が書いた記事は「てにをは」から全部修正されたんですよ。どうやら妙に自己主張が強い文章だったみたいで(笑)。こういう文章は小説向きだと思っていたと、その編プロを辞めた後に聞かされました。私以上に本が好きな夫がそう言うなら書けるかもと変な確信を抱いたのですが、しばらくは何も書かなかったですね。

――編プロの次に、眼鏡屋さんに勤めたそうですね。

小山田 会社を辞めたいなと思っていたときに、たまたまお店の前を通りかかったらスタッフ募集と書いてあったので、何も考えずに入って。「雇ってください」とお願いしたらそのまま採用されたんです。眼鏡を売るのはものすごく楽しかったんですけど、7~8か月で辞めてしまいました。制服がない上に、毎日そこそこちゃんとした服を着ていかなきゃいけないので、自分には無理だと思って。私、おしゃれじゃないんです。そんな理由で辞めるのは申し訳なかったんですけど……。

――次に転職したのが大手自動車メーカー。

小山田 正確にいうと派遣会社に登録して大手自動車メーカーの子会社に派遣されたんです。大学を卒業して5年の間に3度転職しました。

――「工場」のモデルになったのは、その自動車メーカーの工場ですね。見たときに何か驚きがあったんでしょうか。

小山田 大きい、と思いました。広い敷地にいかにも工場然とした古い建物、本社があるきれいなビル、巨大な駐車場があって、何かわからない掘っ立て小屋みたいなものもある。いろんなものが雑多に存在していて、本当にひとつの世界だなと。
前の職場では、私が眼鏡を1本売ればお店の利益になるということがシンプルに実感できました。でも工場で私が受け持っている仕事は細分化された業務のごく一部で、自分がやっていることが何なのか説明できない。例えばパソコンで何かを清書したりファクスを送ったりする作業が、世界とどう関係しているのか全然わからないという不安と恐怖を感じたんです。今ならもっとちがう考え方ができたかもしれませんが、不当にお金をもらっているような気がして仕方がありませんでした。そのころに結婚して、本格的に小説を書こうと思ったんです。周りにあるもので不思議だなと思ったことをメモするところから始めました。

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