小説の中に登場するさまざまなヒーローたち。彼らが語るフレーズの中には、時代を超えて輝き続ける「男らしさ」が滲むものがいっぱいある。
古典的名セリフでおなじみ、あのヒーローから、現代を疾走する若きヒーローまで、男も惚れる男たちの素晴らしきフレーズを紹介!


■マーロウ、スペンサー、ハードボイルドな男の言語力は、別れ際にスパーク!?

『If I wasn't hard,I wouldn't be alive.
If I couldn't ever be gentle,I wouldn't deserve to be alive.
(強くなければ生きられない。優しくなければ生きる資格がない)』


 小説に登場する「男らしいフレーズ」と聞いて、このセリフがすぐ浮かんだ方も少なくないだろう。「男が惚れるいい男」を古今東西の小説の中から選ぶ際、やはり、このセリフの語り主である、この男を外すわけにはいかないだろう。

 彼の名は、フィリップ・マーロウ。
 レイモンド・チャンドラーが生み出した、ハードボイルド私立探偵の代名詞的存在。年齢は30代後半、独り者、肉親なし。好きなものは、女と煙草と酒とチェス。
権力にも金にも媚びず、自分の信念を貫き通す男。彼の登場する『大いなる眠り』『さらば愛しき女よ』『長いお別れ』などの7作品たるや、まさに、全編名セリフのオンパレード。
 
 その中でも、あまりに有名なあのフレーズ。は、チャンドラーの最後の作品となった『プレイバック』に登場する。

「強くなければ生きられない。優しくなければ生きる資格がない」--
 ハードボイルドな男の必須条件、それは、優しさと強さ。
 それでは、優しさとは、何か。強さとは、何か。
 この問いに、誰もが納得できるような答えがあるくらいなら、小説というものがなくなってしまうのかもしれない。なので、きわめて個人的な見地から、男の「優しさ」と「強さ」が滲みでるようなフレーズをピックアップしてみることにする。

 まずは、優しさ。
 女性に対して、ということに限定するなら、マーロウはもちろん、マーロウについで有名な私立探偵であり、マーロウよりはるかに饒舌なロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」のスペンサーも、女性に対して、自身の優しさを表現するような言説は弄さない。これって、ハードボイルドな男のNG事項なのかも。
 だが、だが、である。いざ、別れ際となると、話は違う。彼らの言語力が、いきなりスパークするのだ。

 スペンサーは、事件で関わりあった、大富豪の娘から「こんどにいつ会える?」と尋ねられ、こう答える。

「おれたちは住んでいる区域が違うんだよ。しかし、おれはいつもいる。そのうちに立ち寄って、昼食でもおごるよ」(『ゴッドウルフの行方』より)

『ゴッドウルフの行方』


 ちなみに、矢作俊彦が久しぶりに書いたハードボイルド小説>『ロング・グッドバイ』(このタイトル、チャンドラー『長いお別れ』の・・・スペルは、WRONGなんですけど・・・たぶん、確信犯でしょう)でも、主人公の刑事・二村が、事件に関わった女性との別れ際に、激似のセリフでキメる。

「ぼくは、君が必要としているような人間じゃないんだ。それでもかまわなければ、いつでも来ればいいよ。寝室を毎日掃除して待っているよ」

『ロング・グッドバイ』


 「待っている」じゃなくて、「いつもいる」というあたりが、クール度高し。これは、ちょっと応用できるかも。さて、お次には、「強さ」。