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『スタッキング可能』松田青子インタビュー(4ページ目)

「さいしょの1冊」をテーマに話題の本の話を聞きます。第1回のゲストは、松田青子さん。初めての単行本『スタッキング可能』について語っていただきました!

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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会社にオランウータンがいる

――会社を舞台にしたのは?

松田 階数を変えられるということと、あと自分をいちばん出せない場所だから。みんな自分を殺して働く。あるルールに則ってここにいます、という基本割り切った場所だからです。その分いろんな気持ちが隠されている。

――読んでいて、会社っておもしろい場所だなと思いました。

松田 わたしもいろんな職場で働きましたけど、おもしろいですよね。なんだこれ、と思うことがいっぱいあって。

――いろんな会社があるのに、似たような人がどこにでもいて。

松田 思った以上にみんなひとり、ということにもびっくりしました。全然ちがう人たちが寄せ集められているから、お互いを理解できなくて、そのままそこにいる、みたいな。

――チームリーダーがオランウータンにしか見えないというC田が従兄に〈簡単なことだ。これだけわかっていればいい。誰も理解してくれない。それに加えていうならば、誰のことも理解できない〉と言われる場面も印象に残っています。ほんとにそう思うと気が楽になるなって。

松田 そういえば、書店員さんにお会いしたときに「うちの職場にもオランウータンがいます」と仰ってくださったんですよ。「やった!」と思いました。「ああいうわからないものの象徴っていますよ」って。

――うん、いますね。わからないものと対峙するときに、D山が好きなコージーミステリの世界にダイブするところも楽しかったです。

松田 コージーミステリっておもしろいですよね。

――わたしはあまり詳しくないんですけど、謎以外のお茶とかケーキとか、細部が好きという気持ちはわかる。読んでいると落ち着く感じがあるなって。

松田 そう、落ち着くんですよ。「なんてパラダイス!」と思います。おいしそうなものが出てくるのを待ちながら読む感じ。登場人物は匿名ですけど、コージーミステリ作家のローラ・チャイルズとか、モノに関しては意識的にガンガン固有名を出しています。

――化粧品のブランド名とか。

松田 はい。人って、モノで救われている部分があるのではないかと思っていて。それぞれ救われるものが何かはちがうけれど、みんな持っている。それは生きていくための武器だと思うんです。会社にいたときにびっくりしたんですけど、男の人は「ジャンプ」とかの少年誌による救われ度がほんとうにすごいんですよ。

――A山が〈会社員は皆スタンドを持っている〉というところがありましたね。スタンドというのは、『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる、超能力を擬人化したような存在。

松田 わたしも会社にいたとき、これスタンドじゃないかと思ったんです(笑)。A山にとっては「ジョジョ」が武器で、その武器がポールアンドジョーのリップのような可愛いものでもあり得るという。

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