『巨象も踊る』

ルイス・ガードナー/著 山岡洋一、高遠裕子/訳 日本経済新聞社 2500円
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■美辞麗句で飾られた空疎な掛け声では企業は変わらない。日本企業で働くビジネス・パーソンたちにも胸に響く「ガードナー流」

著者であるルイス・ガードナーは、1993年にIBMの会長兼CEOに就任し、わずか数年で同社をV字回復させた経営者である。彼が就任した当時、IBMは売上、利益の大幅な減少をはじめとして、危機的な状況にあった。経営数値的な側面はもちろん、技術の変化が速く、軽量で敏捷な企業が圧倒的に多い情報産業の分野でIBMのような巨大な企業が素早く動いて競争に勝ち残るのは無理だと多くの識者たちは予想していた。IBMは、その巨大さゆえに地上から消えていった恐竜になぞられられていたのだ。ルイス・ガードナーは、そんな恐竜、本書のタイトルに準じるなら巨象を、軽やかに躍らせ、危機の淵からみごとに退避させたのである。その手腕から90年代の名経営者の一人と数えられる男が、自らの軌跡と経営哲学を語る。


「IBMの復活」と言われても、情報産業という業界の事情に不案内の方は(筆者も含む)「へぇ~そんなことがあったの?」というところだろうし、逆に詳しい方にとっては、「もう10年近く前の話でしょ」というところかもしれない。だが、実際に本書を読んでみると、そこにこめられたメッセージは、業界や立場に関わらず、先の見えない苦境にあえぐ日本の企業活動に何らかの形で参加している多くの者の胸に響くものであると思う。
何よりも、カタカナの経営用語がほとんど出てこないのがいい。

そう、本書だけでなく、著者は、経営においても、けっして美辞麗句に飾られた空疎な掛け声には頼らない。なにせ、就任当初の記者会見で「ビジョンは今のIBMにもっとも必要のないもの」と言い切ってしまうのだから。
立派なビジョンを掲げる経営者はたくさんいるだろう。ビジョンや戦略の策定は著者が言うように経営者の仕事だ。だが、彼が稀有なのは、何よりもそれを実行することがもっとも大切だということを知っていたこと、そして、社員たちがそれができるような体制や企業文化を再構築したことだ。

彼の具体的な方法論は本書をお読みいただくのは一番なのだが、その根幹に、少しだけ、私なりに触れてみようと思う。