派遣切りなど、日本全体が労働問題で揺れた平成20年度下半期。ワーキングプアでワーカホリックの女性を主人公にした小説が、芥川賞を受賞しました。津村記久子『ポトスライムの舟』。受賞作の内容をご紹介しながら、津村作品の魅力にせまります。※他の候補作は文藝春秋のサイト参照のこと。

津村記久子『ポトスライムの舟』

ポトスライムの舟
<DATA>タイトル:『ポトスライムの舟』出版社:講談社著者:津村記久子価格:1,365円(税込)
この作品の主人公であるナガセは、29歳。就職氷河期に入社した会社でひどいモラルハラスメントにあい、働くのが怖くなってしまったという経験をしています。

現在の主な仕事は、工場で乳液のビンのフタをしめたあとひっくり返し、液漏れしないかどうか確かめること。それに加えて、友人のヨシカがひとりで経営するカフェの手伝い、パソコン教室の講師などを掛け持ちしている。働き者です。

人間関係が良好な今の職場は居心地がいい。でも、あまりの薄給に気持ちが折れることもある。そんなとき、ナガセは工場で、NGOが主催する世界一周クルージングのポスターを見ます。船に乗るのに必要な費用は163万円。ナガセの工場での年収とほぼ同額でした。

生きるために薄給を稼いで、小銭で生命を維持している。そうでありながら、工場でのすべての時間を、世界一周という行為に換金することもできる。

時間をお金に換金し、お金をまた別の何かに換える。そのお金を生命を維持するために使う1年と、世界一周に使う1年ではどう違うのか。ナガセは工場の給料に1年間手をつけないで、残しておくことにするのです。

読者はこのあたりで、思わず自分の年収と、それがどんなものや時間と等価になるのか考えてしまうでしょう。難しい言葉は使われていないので、すっと読めますが、書かれていることは深い。津村さんの作品全体にいえることだと思います。

ナガセはまず無駄遣いをなくそうとしますが……「人生銀行」の逆バージョン!?