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新シリーズ「ミステリーランド」の魅力<1> 『くらのかみ』ほ

小野不由美、島田荘司、殊能将之という豪華執筆陣をひっさげて刊行、講談社のジュビナイル・シリーズ「ミステリーランド」。子どもにだけ独占させておくわけにはいかないその魅力を2回シリーズで紹介。

執筆者:梅村 千恵


講談社「ミステリーランド」初回配本作品
『くらのかみ』小野不由美この本を買いたい!
『透明人間の納屋』島田荘司この本を買いたい!
『子どもの王様』殊能将之この本を買いたい!


■ジュビナイルと思えぬ豪華な執筆陣。高いクオリティー。子どもにけ独占させるなんて・・・

 小野不由美『くらのかみ』、島田荘司『透明人間の納屋』、殊能将之『透明人間の納屋』。筒抜けの箱に入った凝った装丁がひときわ眼を惹くこの3冊、講談社の新シリーズ「ミステリーランド」の初回配本作品である。
 「かつて子どもだったあなたと少年少女のために」という謳い文句からわかるように、ジュビナイル=お子様本なのであるが、発売以来、子どもだけが買っているとは思えぬ人気ぶり。
 そりゃあ、そうであろう、このお三方とも、ミステリー通の大人たちの間で新作が待ち望まれている、実力・人気兼ね備えた「本格派」なのだから。

 さすが、本格ミステリーの本家本元、講談社、である。

 一読、これは、子どもに独占させておく手はない!と実感。
まずは、三作三様の魅力の一端を紹介したいと思う。

 最初に、久々の新作とあって、オンライン書店などでは予約段階からベストセラー入りをしていた小野不由美『くらのかみ』。
 小学6年生の耕介は、父親に連れられ、山奥の村の本家を訪れる。本家の跡取りを選ぶための会合が持たれるためで、親戚の子どもたち5人もそれぞれに親に連れられてやってきていた。普段と違う環境を楽しむ子どもたちだが、やがて奇妙な毒殺未遂事件が・・・。
 家系図、館の見取り図といった、いかにも本格推理ものらしいアイテムを盛り込み、作りこみも実に緻密。さらに、がっちりした推理に「座敷童子」という民俗学的な要素を絡まさせるなど、著者独特の魅力が十二分に堪能できる作品だ。

 次に、本格ミステリー界きっての理論派でもある論客でもある島田荘司(この人が、ジュビナイル!まず、この事実に驚愕させられる)の『透明人間の納屋』。
 母と二人暮らしの「ぼく」にとって物知りの真鍋さんは、父親のような存在。ある日、僕は、真鍋さんから、日本には以前から「透明人間」がいるという話を聞く。そして、時を同じくして隣町では、透明人間の仕業としてか思えない、人間消失事件が起きていた・・・。
「美しい謎」を提出し、それを論理的に解明いく、島田作品の魅力が味わえる作品だが、注目すべきは、事件の背景に、現代日本が抱える重大な社会問題が投射されていることだ。既存の島田作品とは一線を画す「社会派」に仕上がっているのに驚かされる。著者の新しい境地といっても過言でない作品であろう。

 最後に『ハサミ男』でミステリー界に登場した殊能将之『子どもの王様』。
ショウタは、過激な罰ゲームが売りの俗悪なテレビ番組に夢中の今どきの小学生。団地という閉鎖空間で、少々騒がしいがそれなりに平穏な日々を過ごしている。ところが、登校拒否の友人から「子どもの王様」の話を聞いたことで、その日常が少しずつ軋み始める。
 結末は、ジュビナイルとも思えぬ残酷なもので、まず、そのことに驚かさせる。賛否両論ありそうだが、ある意味、「残酷であること」は、子どもの一つの特質で。そして、 闇を抱えこむ力こそが、子どもの可能性だと言えるのではないか・・・。そんなことを考えさせられる含蓄深い結末であり、そこに漂う奇妙な清冽さは、この著者しか表現しえないものではあると思う。
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