――翻訳家になりたかったのはどうしてですか?

松田 子供のころから、本の中でも外国の児童文学にはまっていたんですよ。リンドグレーンとか、オフリート・プロイスラーとか、ルーシー・M・ボストンの「グリーン・ノウ」シリーズとか。だから海外に行ってみたいなあという気持ちがあって、高校生のときアメリカに留学させてもらったんです。そうしたら授業で読んだ英米文学がめちゃくちゃおもしろくて、びっくりしてしまって。ジョイス・キャロル・オーツの「どこへ行くの、どこへ行ってたの?」とか、フラナリー・オコナーの「善人はなかなかいない」とか。どちらも見慣れた日常生活が一瞬でひっくり返ってしまう物語で、こんなすごい小説は初めてだと思ったんです。
大学も英文科でした。スーザン・マイノットの「欲望」やシャーリー・ジャクソンの「くじ」が強く心に残りました。柴田元幸さんや岸本佐知子さんに憧れていて、卒業後は働きながら翻訳学校に通ったりもしていました。でも学校で習うのは技術翻訳や産業翻訳ばかりで。企業の契約社員として翻訳の仕事はするようになりましたが、どうしたら文学の翻訳をやらせてもらえるのかわかりませんでした。

――2012年の11月に出た『はじまりのはじまりのはじまりのおわり』は、アメリカの児童文学ですね。どういう経緯で訳すことになったんでしょうか。

松田 福音館書店の編集者の方が、童話を書かないかと仰ってくださったんですよ。打ち合わせしたときにふだんは何をしているのかという話になって、「IT会社で内部翻訳をしています」と言ったら、「訳者が決まらなくてずっと塩漬けになっているものがあるから試しにやってみませんか」と。小さなカタツムリとアリが冒険する話なんですけど、原文をそのまま訳すとスカスカになってしまうんですよ。創作をしている人間なら足りない分を補えるんじゃないかって。けっこう自由にやらせてもらいました。

――冒険の話なのに、ほとんど移動しないんですよね。

松田 一本の枝の上だけで展開します。主人公のエイヴォンとエドワードは想像力でただの枝の上の移動を大冒険に変えることができるんです。巻き込まれた動物たちにとってそれ迷惑なんじゃってところも面白いです(笑)、訳しているうちにふたりがすごく好きになりました。これはすごくいいお話だなって。