『8月の果て』
日本の占領、南北戦争・・・激動の歴史を生きた祖父の物語を鎮魂の思いを込めて描く。


『8月の果て』
・柳美里 (著)
・価格:2730円(税込)

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■苛酷な運命に翻弄された者たちの「出会いと別れ」を鎮魂を込めて描く
『家族シネマ』で芥川賞を受賞し、「命」シリーズで、自身の出産と愛する人の別れを赤裸々に綴り、大きな反響を呼んだ著者。久々の長編である本作で、彼女は、自らの血の系譜を遡った問題作である。作品の中核を成すのは、植民地支配、南北戦争前後の混乱の時代を生き、日本へと流れ着いた祖父をめぐる大作である。

さて、物語は・・・
訪韓し、亡き祖父・李雨哲の魂を招く儀式に臨席した柳美里。ムーダン(巫女)の身体に、祖父、祖父の一人目の妻、そして、「ナミコ」という日本名を名乗り、親から授けられた名はけっして口にできないと言う女たちの霊たちが降りてくる。柳美里は、彼らの霊に突き動かされるように、祖父と彼をめぐる人物たちの慟哭に突き動かされるように、祖先たちの物語を生き始めるのだった・・・。日本占領下の韓国、密陽の町で傑出したランナーとして知られた雨哲。だが、目指すオリンピックは幻と消え、彼の人生の歯車は次第に狂っていく。妻以外の女性たちを漁り、自らの周囲に憎悪と葛藤を広げていく雨哲。一方、兄に影響されて走るようになった弟・雨根は、マルクス思想に傾倒し、第二次世界大戦後、反動共産分子とみなされ「国民保導連盟事件」に連座し、横死を遂げる。そして、雨哲は、弟の死、家族の確執から逃れるように、日本へと渡る・・・

■デリケートな歴史的事件を扱ったことで、物議をかもしたが・・・

現代の韓国でもいまだタブー視されている「国民保導連盟事件」を扱ったことや、従軍慰安婦の「仕事」の現場をあまりにも生々しく描写したことなどで、新聞連載当時より、物議をかもした本作。著者と編集部のトラブルを想像させる「途中打ち切り」が、ネガティブな評価に拍車をかけた形になってしまった。ホームページ上で「どんなことがあっても、完結させる」と悲壮なまでの決意を述べていた著者(つくづく闘う人だなぁ~彼女は・・・)。その思いが実り、完結作が「新潮」に掲載され、出版の運びとなった。
確かに、慰安婦の営みをかなり細にいり微にいり描写した記述を、細切れで読まされるのは、少々辛かった。
だが、一冊の本にまとまり読んでみると、描かれた特殊な背景は、あくまでも背景であり、作品の主眼はそこではないように思えたのだ。