夕立の中で繰り広げられるエキサイティングな物語
夏の暑い日、突然やってくる夕立は、ちょっぴり怖くてエキサイティング。あたりが急に暗くなり、稲妻と雷鳴がとどろき始めると、いつもと違う何かが起こりそうでドキドキしてしまいます。それは、南の島に住む動物たちも、例外ではありませんでした。今回は、カリブの昔話をもとにした、オオカミとヤギのドラマチックなお話『ゆうだち』をご紹介します。南の島のヤギは、三味線片手のロックンローラーだった?
南の島に住むヤギが夕立にあったのは、ちょうどオオカミの家の前でした。雨宿りをすすめるオオカミの言葉に従って、家に招き入れられたヤギ。ほらほら、役者は揃いました。これからどんなお話が展開するのか、絵本好きな読者ならすぐに思いつくかもしれません。
ところが、今回ばかりは、みなさんが想像するようなありきたりのお話ではありません。もちろんオオカミは、ヤギを食べる絶好のチャンスを得たと大喜びで、三味線片手に「夕立が来たら、美味しいお客が向こうからやってくる」と喜びの歌を歌い始めます。耳のいいヤギはこの歌を聞き、「美味しいお客」とは誰のことなのかすぐに感づきます。
ヤギは怯えながらも一計を案じ、自分にも歌を歌わせてほしいとオオカミに頼みます。そして、三味線片手にこんな歌を歌いました。
なんとハードな歌詞でしょう。皆さんが良くご存じのおとなしいヤギとは大違い。しかも、歌を繰り返すうちに、ヤギの目つきは変わり、大声になり、自分でもだんだんおかしな気分になっていくのです。体が勝手に動き、暴れ始めたと思ったら、三味線だけでなく部屋の椅子まで壊してしまい、その興奮状態は、まるでロックのコンサートのようです。ゆうだちが きたら おかしくなる むしゃくしゃして へんになる
このまえ たべた オオカミ 3ひき そろいも そろって いくじなし
ゆうだちが きたら おかしくなる なにを しでかすか わからない
いやいや、ギターではなく三味線をつま弾いているのだから、ロックはおかしいですね。 それでも、「ヤギはオオカミに食べられるものと誰が決めた?」と言わんばかりのシャウトからは、ロック魂がビンビン伝わってきます。
この様子を見たオオカミは、ヤギの様子に恐怖を覚えます。その時の、ヤギとオオカミの立場が一瞬で逆転する面白さ。お見事です。弱い者の捨て身の反撃(?)に、オオカミはたじたじです。こうなると、もうオオカミに勝ち目はありません。尻尾を巻いてただ逃げだすことしかできないオオカミですが、可愛い息子と愛する奥さんを、自分より先に避難させます。このあたり、なかなか男気があるじゃありませんか。悪役のイメージが強いオオカミの好感度を上げたことは間違いありません。
さて、「ヤギとはこういうもの、オオカミとはこういうもの」という既存の考えに揺さぶりをかけたこちらの作品の作者もまた、主人公以上にロック魂を持った方とお見受けしましたが、なんと作者あきびんごさんは、もともと日本画家でいらっしゃるそうです。絵本以外の作品も拝見したくなりますね。
【書籍DATA】
あきびんご
価格:1050円
発売日:2012/6/5
出版社:偕成社
推奨年齢:4歳くらいから
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