国民年金のモラルハザードが起きるわけ
年金額が低くて生活が苦しいであろう人に年金額を加算してあげよう、という簡単な話は、細かいところを詰めはじめるとどんどん複雑になっていきます。最初の法案では、6000円の加算、というところに落ち着きました(免除期間についての加算は別途行う)。しかし、衆議院を通過する際の三党合意では5000円に引き下げたうえ、福祉的な取り扱いとして年金とは分けようという修正がなされています。
今回簡単だったはずの話が、どんどんややこしくなった背景には未納の問題があります。国民年金について「未納」の問題がなぜ起きるかというと、強制力が弱いからです。税金を未納すればペナルティがすぐ来ますし厳しいので、普通は納めます。脱税がばれればさらにペナルティは大きくなるので普通はやりません。
国民年金保険料については自分で伝票をもって納付しにいかなければ簡単に未納ができてしまいます。それほど強い督促はこないので一度やると二度目もやってしまいます。しかも30年や40年後のことですから、たいしたことがないと考えてしまうわけです。一方で、もらうことを考えると、国民年金と生活保護は、どちらも「所得がなくなったときの社会的保障」という性格を持っています(実は単身者の同一条件であれば国民年金と生活保護は同水準です)。
しかし片方は「保険料を納めて、実績にもとづき年金額が決まる」年金であり、片方は「税金を全額財源とし、とにかく所得がないときに支給する」生活保護となっています。これまた、「未納しても生活保護もらえるよね」というモラルハザード問題に戻ってきてしまうわけです。
不毛な論議を終わらせる大胆な提案をしてみる
筆者の考えは、生活保護と国民年金制度は融合してしまったほうがいい、というものです。また、保険料制度とは決別したほうがいいと思います。保険料制度を続けている限り、「納めた保険料に見合った年金」という議論から抜けられないからです。たとえば、毎月の国民年金保険料をゼロにする代わりに相当分を消費税増でまかないます(厚生年金保険料も相当分引き下げます)。とにかく日本にいて日常の買い物をしていれば国民年金に加入して負担していたという考えです。その代わり、65歳になれば無条件で満額の国民年金がもらえます。これなら、生活保護と国民年金のどちらがトクか考える必要はありませんし、「未納による保険料逃れ」もできません。もし逃れたい人は節約をすれば保険料を少なく納めることになるので、消費が少ない人ほど負担が少なく、贅沢な人ほど多く負担をします。
また、お年寄りも若者も、会社も国も、買い物のたび国民年金の財源を負担することになりますから、「現役世代だけ負担」という不公平もありません。
未納者に払ってもらうため電話をかけたり人を派遣する必要もないので、徴収コストも下がるでしょう。
ただしこれだけの大改革をやると、今よりさらに8%(消費税10%になるのとは別)ぐらいの消費税の引き上げが必要にはなるでしょう。いいアイデアだと思うのですが、現状で消費税引き上げが実現に苦労する様子を見ていると、難しいだろうと思います。
なかなか「簡単な話を簡単に実現」とはいかないものです。