恐怖症とは、何かへの苦手意識が高じてしまい、恐怖と呼べるレベルにまでなった状態ですが、その対象によっては、例えば、広場恐怖が進んでしまうと、ひきこもりに近くなってしまう可能性もあります
今回は、ひきこもりに関連する心の病気として、特に、恐怖症、社会不安障害、そして強迫神経症について詳しく解説します。
もしも恐怖が高じてしまったら?
人間、誰しも苦手なモノはあるもの。例えば、ゴキブリを見た途端、「キャッー!」と思わず、大きな悲鳴が出る人は決して少なくないかも。それでもたいていはゴキブリがたとえ大の苦手でも、日常生活にさほど支障は出ないものです。しかし、もしも苦手意識が高じた結果、恐怖と呼べるレベルにまでなった場合は要注意! その対象によっては、日常生活に深刻な問題が生じやすくなります。例えば、広場恐怖。精神医学の用語で、周りにすぐ助けを呼べないような、開けた場所に対する恐怖を指します。この広場恐怖が進むと、外出時、一緒でいられる誰かを必要としてしまい、それが相手にとって、大きな負担になれば、2人の関係にヒビが入ってしまうかも。さらに、こうした状況下で、外の開けた場所で、パニック発作のような強い不安症状が起きてしまうと、それをきっかけに、外出をためらうようになり、ひきこもりに近い状態になる可能性もあります。
とはいえ、もしも、「自分には全然、関係ない!」と思われたら、いささか早計の可能性あり! 恐怖症は実は頻度の高い、心の病気で、罹患率は人口の約10%前後もありますが、精神科受診が少ない病気。もしも未治療のまま放置しておくと、恐怖の対象によっては、ひきこもりに近い状態になるまで、症状が深刻化してしまう可能性もあります。ご自分に心当たりがない場合でも、もしも、身近な人で、何かへの恐怖のため、日常生活に支障が出ている事に気付かれたら、是非、精神科受診をおすすめ頂きたいです。
社会不安障害(対人恐怖症)
人前に出ると、本来の自分ではなくなってしまう。心当たりのある人は、決して少なくないはず。これが顕著になったのが、いわゆる対人恐怖症ですが、実は、かつて、欧米の人にとっては、日本の若者が対人状況に強い不安を覚えるのは不可解だったのか、対人恐怖症はローマ字読みで「taijin kyofu sho」と、そのまま病名になってしまい、日本人に見られる文化依存症候群の一つとされていました。欧米では、人前で堂々と振る舞う事が当然とされていたためだと思いますが、実は、その後、欧米でも対人恐怖症と類似の症状は決してまれで無いどころか、罹患率は人口の約10%前後と高率である事が分かり、社会不安障害という病名まで生まれた次第。対人恐怖症は社会不安障害の一種と見る事もできます。
さて、対人状況を適切にこなす事は、社会生活を送る上での必須事項。もしも対人恐怖が強まった結果、対人状況を避けるようになってしまうと、社会的に不利になりやすいもの。例えば、自分に合った仕事を得る機会を逃してしまう……といった事態が起きやすくなります。さらに、もしも未治療のまま、症状が進んでしまうと、対人状況を完全に避ける、ひきこもりになってしまう可能性もあります。社会不安障害は、うつ病、アルコール依存症など、他の心の病気も合併しやすい病気。なるべく、できるだけ早期に精神科を受診し、対人状況での不安に対処できるよう、治療を受ける事が望ましいです。
強迫神経症
強迫神経症は頭から離れがたい強迫観念と、その強迫観念から生じる不安を和らげるための強迫行為が特徴的な心の病気です。例えば、ドアに鍵がかかっているか気になってしまい、ドアのノブを何度か回した事は、誰でも覚えがあるかも。強迫神経症は、これが極端になってしまった場合で、何度ドアのノブを回しても、鍵が掛かっていない気がしてきて、確認行為を止める事が出来ず、場合によっては1時間以上、確認行為を続けてしまう事があります。強迫神経症の罹患率は人口の約1%。その原因の詳細は不明ですが、おおまかには遺伝的、社会環境的、心理的要因がネガティブに相互作用した結果、脳内環境が病的になったためだと考えられています。強迫神経症は未治療のまま放置されれば、症状は悪化しやく、強迫観念と強迫行為が、その人の暮らしの中心と言えるほど、時間とエネルギーが費やされてしまい、極端な場合、外出さえ出来なくなる可能性もあります。
強迫神経症の予後を良好にする最大のポイントは、心の病気一般に当てはまる事ですが、できるだけ早期に治療を開始する事! もしも、何らかの強迫観念があり、それから生じる不安に対処する、何らかの行為に毎日30分以上、費やすようなら、強迫神経症に要注意です。もしも日常生活上、必要なルーチンをこなせなくなっているようなら、是非、精神科受診も、ご考慮してみてください。
以上、ひきこもりに関連する心の病気として、恐怖症、社会不安障害、強迫神経症の3つを取り上げましたが、他の心の病気でも、その症状が進んだ結果、社会生活上、必要な機能が阻害されてしまえば、場合によっては、ひきこもりに近くなってしまう可能性があります。最後に繰り返しますが、心の病気の予後を良好にする原則は、できるだけ早期に治療を開始する事、つまり、できるだけ早期に精神科(神経科)のドアを叩くという事は、是非、頭の中に入れておいてください。