なぜか1型糖尿病の発生数が年4%ずつ増加しています。20年ごとに2倍になります。その原因は残念ながらまだ明らかになっていません。(写真は糖尿病とは無関係です)
(c)2010 KAWAI Katsuyuki
自己を破壊して、拒絶し排除する自己免疫は、免疫システムとしてはもともとあってはならないものです。1型糖尿病だけでなく、各臓器や全身性の自己免疫病が難病中の難病と言われるゆえんです。
予防なくして完治なし
1型糖尿病は特定のHLA-DQ遺伝子を持っている人に起こりやすいのは分かっています。しかし、遺伝はあくまでもストーリーの一部で、1型糖尿病を発生した子どもの兄弟姉妹や1型糖尿病の親を持つ子ども達など、遺伝的には高リスクであっても全員が1型糖尿病になるわけではありません。
そこで発症の引き金となる環境因子を探す大きな治験が遺伝的に高リスクの子ども達を対象にドイツやフィンランド、アメリカ、その他の国々で行われましたし、現在も進行中です。
ウイルスや食物、腸内細菌やビタミンD(日光不足)はもとより、脱感作を獲得するためにインスリンを経口・経鼻で投与したり、母乳を6~8ヵ月と長く授乳したり、小麦グルテンや牛乳、DHA(必須脂肪酸)、1~2%の親が冷凍保存してあった「さい帯血」移植なども研究中です。
疑わしいものは端から順に全部調べられていますが、まだ確認されたものはありません。
まず、原因を見つけて予防につなげる。それでも発症したら、なるべく長期間ベータ細胞の機能を維持できる治療法を確立するという戦略のようです。
前回記事で言及した糖尿病ワクチンもその一環ですが、免疫システムはミスのないようにとても高度に細分化して複雑かつ微妙なバランスで成立していますから、その一部分に作用する免疫療法は決して無害なものではありません。
ですから、予防と言っても可能性のある人に無差別に投与できない難しさがあります。
そんな中で、ブラジルの研究者たちが行った1型糖尿病患者の自己造血幹細胞移植が2009年のJAMA(米国医師会誌)に発表されたことがあります。
これは糖尿病ワクチンのように免疫システムを調整するのではなく、免疫システムをそっくり入れ替えてリセットしてしまおうという大胆な発想です。同時に発ガンなどのリスクを伴うものでもあります。
重い造血障害や白血病などで行われる、血液を造る細胞系を全部入れ替える骨髄移植と同じようなことを1型糖尿病の患者に行いました。
実は赤血球も白血球も血小板も、様々な免疫細胞も、すべては造血幹細胞という原始的な細胞から分化して作られます。
この造血幹細胞を1型糖尿病患者から採取して患者の免疫システムを薬品で壊してしまいます。そして造血幹細胞を戻してやると本来のベータ細胞を攻撃しない正常な免疫がよみがえったとするのですが、情報公開が不十分で患者の選考方法や副作用、予後などが謎に包まれています。
今のところ、追従する研究は耳に入ってきません。
膵島移植はどうなったでしょうか?
ところで、1型糖尿病の治癒といえば10数年前に話題になった膵島移植を思い出します。膵臓移植よりも患者にとって負担が軽いので大いに期待されましたが、手術は今でも少数しか行われていません。
本場の米国でも1999年から2009年までに膵島移植を受けたのは453人しかいません。
膵臓移植が年1,200件も行われているのですからかなり見劣りします。
膵臓移植が平均10年は保つのに対し、膵島は半分ぐらいですし、高価な免疫抑制剤や追加の膵島移植、必要に応じてインスリン注射の併用となればやむを得ません。
膵島移植は不足しているドナーからの膵島だけではなく、人工的に培養した大量の膵島でいつの日にか1型糖尿病の治癒に貢献しそうです。
次回は1型糖尿病とベータ細胞の話題の最新情報をお伝えします。
(つづく)
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