糖尿病/糖尿病と腸内細菌

腸内細菌と糖尿病…その深い関係の研究(2)

腸内細菌との友好関係が崩れるとさまざまな不調が起きるといわれています。便秘や肌荒れ、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状をはじめ、大腸がん、動脈硬化。さらには糖尿病までも腸内細菌の関与なしでは語れない時代になってきました。

執筆者:河合 勝幸

意外と知らない! 腸は最大の免疫器官

www.genome.gov

NIHでは口や鼻、皮膚、胃腸、尿生殖器にすむ細菌の生態系を2008年から5年間で解明しようとしています。

盲腸炎でおなじみの虫垂(ちゅうすい)は、いとも簡単に切除されるので役立たずと思われがちですが、虫垂は大切な免疫機能をになっているリンパ組織。意外にも腸は最大の免疫器官なのです。そして腸内常在菌との共生の中で免疫力をアップしています。

腸内細菌との友好関係が崩れると、体のさまざまな不調の一因になると言われています。便秘や肌荒れ、花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギー症状をはじめ、大腸がん、動脈硬化など。そして、糖尿病までも腸内細菌の関与なしでは語れない時代になってきました。

からだ全体を覆う皮膚は、何層もの表皮細胞や角質によって体をしっかりとガードしていますが、口腔から肛門へと続く「内なる外界」と接する一本の消化管は、一層の上皮細胞で守られています。口や食道は上皮細胞を重層にして、下からどんどん新しく作り直すことで内部を守りますが、腸では一層の上皮細胞から粘液を出して、体内と全く環境の異なる100兆個もの腸内細菌と接しています。

腸管には神経とリンパ管が張り巡らされていて、体のリンパ球の60~70%は腸管に集結しています。からだ最大の免疫器官と言われるゆえんです。

そして、常に腸内の細菌をモニターしていて、食物成分や常在菌には反応せず、病原体には抗体である免疫グロブリンA(IgA)を粘膜を介して分泌して体を守っています。

腸内細菌と2型糖尿病

肥満が2型糖尿病に関与していることはよく知られています。肥満によって脂肪組織が大きく引き伸ばされると末端まで血液が十分に届かなくなり、低酸素状態の脂肪細胞が壊れます。それを除去するためにマクロファージが集結して白血球の仲間に炎症シグナルを出す。そのシグナル(サイトカイン)が体のほかの細胞内のインスリン伝達経路をブロックするのでインスリン作用が低下して(インスリン抵抗性)、やがて2型糖尿病を発症する……こんな機序で説明されることが多くなりました。

2010年の科学誌Scienceに、メタボや2型糖尿病には「無規律な食べ過ぎ」とは別の、腸内細菌がもたらす食欲や食物の代謝の変化があるようだ、とする論文が載りました。一言で結論を言えば、「強い食欲やインスリン抵抗性があるメタボ・マウスの腸内フローラを、抗生物質で腸内を除菌しておいた別の正常なマウスの腸内にそっくり移したら、見事にメタボ状態も移ってしまった」ということです。

医用生体工学で著明なアトランタ(米国)のエモリー大学医学大学院のMatam Vijay-Kumar,PhD.らの研究グループの発表です。遺伝子操作で免疫システムに欠損を与えたマウスが、ほかのマウスに比べて20%も体重が増えることに一人の研究メンバーが気づきました。調べてみると、太っただけでなく、インスリン抵抗性もあり、血中脂質異常で高血圧、炎症反応もありました。つまり、メタボリックシンドロームです。

このマウスはTLR5(トル様受容体5)という、腸内細菌の病原菌を見分ける重要な免疫システムを欠損されていたのです。その結果、腸内フローラも門(もん)レベルではなく菌種レベルでの変化がありました。

肥満症手術で、2型糖尿病が「治る」理由という記事で、胃を小さくして十二指腸にも食物が通らないようにバイパス手術を受けた人は、術後すぐに、体重が落ちるはるか前から糖尿病症状が消えることを書きましたが、2009年のある論文によりますと、手術後は劇的に腸内フローラの様相が変化するそうです。これも2型糖尿病が「治る」理由のひとつかも知れません。

メタボの前糖尿病状態の肥満者群(男性)の腸内フローラを、痩せ型の提供者の腸内フローラと入れ替える大胆な研究を2010年にスエーデンの研究チームが発表しています。一度全員の腸内を除菌してから、1/2は本人の腸内フローラを元に戻し、残り1/2には痩せ型の他人の腸内フローラを移植しました。ランダム化2重盲検テストです。6週間後の検査では、痩せ型を移植したグループはインスリン感受性が改善して血清脂質のレベルが低下していたそうです。

腸内細菌と1型糖尿病

なぜか自己免疫疾患である1型糖尿病が世界規模で増えています。1型糖尿病の原因……遺伝因子・環境因子でも紹介しましたが、毎年3%ずつ増加しているそうです。科学者は環境要因と考えていますが、からだの内なる「外部環境」つまり腸内細菌にも原因がありそうだというエビデンスが増えています。

2008年のNeture誌に発表されたのは次のようなものです。1型糖尿病を発症しやすい系統のマウスを、遺伝子操作で腸管免疫システムに手を加えると1型にならなくなりました。

ところがこのマウスを無菌状態にするとやはり1型糖尿病になってしまうのです。腸内細菌がマウスを1型糖尿病からどう守っているのかは明らかではありませんが、いろいろな腸内細菌の抗原によって免疫システムが正常に作動するようになって、自己免疫の誤作動による1型糖尿病が発症しにくくなることは想像できます。

この結果は衛生仮説(hygiene hypothesis)とよく一致します。この説は、もし、ヒトが発育期に十分な微生物や細菌に接触しないと免疫システムが正常に発達せず、1型糖尿病やアレルギー体質のような自己免疫疾患のリスクが高くなるというものです。

もう一つの可能性は、生後すぐに母胎の産道や授乳、助産婦などから細菌をもらって赤ちゃんの腸内フローラが確立するのですが、もしきれい好きのお母さんが実は便秘症で悪玉の腸内細菌をいっぱい持っていたりすれば、赤ちゃんの免疫システムに問題が起きるかも知れません。腸内フローラが異常だと腸の粘液が不足するなどして漏れやすい腸になって、病原菌が侵入しやすくなり、免疫システムが混乱します。

1型糖尿病と腸内フローラの研究はまだ始まったばかりです。小さな研究が2010年にISME Journalに発表されました。フロリダ大学のEric Triplett教授らの研究です。遺伝的に1型糖尿病の発症リスクの高い幼児、子供たちの腸内フローラを追跡したのです。それによると、1型を発症した子供たちの腸内フローラは、対照群の健康な子供たちにくらべて明らかに変化しはじめたのです。この結果も上記の衛生仮説を支持するものでした。対照群の自己免疫疾患のない子供たちの腸内フローラは、菌種が多種多様で、これは発育期に多くの細菌にさらされた結果ではないかと研究者は考えています。

すでに糖尿病になった以上は打つ手がありませんが、大切な家族を糖尿病から守るために腸内環境に気を配ることは出来ます。腸内細菌には善玉菌と悪玉菌、状況次第でどちらにも転ぶ日和見菌のグループがありますが、専門家によるとこれらの2:1:7のバランスが理想だそうです。

理化学研究所で一般人の腸内フローラを検査をしてくれるというニュースを見た記憶があるのですが、どうなりましたでしょうか。

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