糖尿病/1型糖尿病

1型糖尿病の原因……遺伝因子・環境因子

重い病気にかかると、誰だって「なぜ私が?」と思います。ましてや、聞いたこともない1型糖尿病ではそうでしょう。糖尿病はすぐに診断することができますが、どんなタイプか、何が原因だったかはまだまだはっきりしません。

執筆者:河合 勝幸

1型糖尿病は幼児ほど進行が速く、成人になると遅くなります。その理由は不明。(写真は糖尿病とは関係ありません)

1型糖尿病は幼児ほど進行が速く、成人になると遅くなります。その理由は不明。
(写真は糖尿病とは関係ありません)

重い病気にかかると、誰だって「なぜ私が?」と思います。ましてや、聞いたこともない1型糖尿病ではそうでしょう。糖尿病とは不思議な病気で、今日では診断は容易です。でも、どんなタイプの糖尿病か?となると、場合によっては判断が難しく、その原因や発症のメカニズムとなると、まだまだはっきりしません。

1型糖尿病のメカニズムについては2016年2月号の「Science」に驚くような論文が載りました。今まではT細胞が誤ってインスリンを作るベータ細胞を攻撃すると考えられていましたが、実はベータ細胞そのものではなく、中にあるプロインスリンの切れ端と他のペプチドの切れ端が結合したハイブリッド・インスリン・ペプチド(HIPs)が標的だったのです。
1988年に1型糖尿病が白血球の一種であるT細胞に起因することを証明したコロラド大学(米)のK.Haskins教授と彼女の共同研究者T.Delongの論文です。この標的となる自己抗原の構成が明らかになれば、1型糖尿病の診断、予防と治療そして完治への道が拓けそうです。

ここでは遺伝因子と環境因子に絞って解説しましょう。


1型糖尿病の遺伝因子

1型糖尿病は遺伝と環境の複雑な組み合わせで発症すると言うと、「自分の家系には1型糖尿病なんか1人もいない」と異をとなえる人がほとんどでしょう。誰もが不審に思っているのです。

まず第一に、1型糖尿病はインスリンをつくる膵臓のベータ細胞を(あるいは上記のHIPs)自分の免疫系が「異物」と認識して破壊してしまう、自己免疫性の病気であることを理解してください。自分の体を侵入物から守る免疫系が、自身を攻撃してしまう自己免疫反応の病気は意外と多いのです。

例えば甲状腺機能低下症(橋本病)や同じく機能亢進症(バセドウ病)、食物のグルテンに対応できないセリアック病、J.F.ケネディも患ったアジソン病、多発性硬化症なども自己免疫反応が強く疑われている病気です。

そして─ここが肝心なところですが─1型糖尿病は自己免疫性の病気が多い家族にしばしば見られることがあるのです。1型から1型へ、だけが遺伝ではないようです。さらに1型糖尿病のある人は、人生のいずれかの時期にこれらの自己免疫性の病気を発症するリスクが高いのです。どうやら特定の遺伝子領域に関係がありそうです。

単一の遺伝子で全ての人に糖尿病を発症させるようなものはありません。いや、わずかに例外があって、MODY(モディ、若年発症成人型糖尿病)という原因遺伝子が分かっている、若年で発症する糖尿病というものがあります。これは明らかに違う糖尿病で、薬物で治療ができるものですが、1型・2型ではなく「その他の糖尿病」に分類されています。

1型糖尿病を発症させやすくする遺伝子、これを糖尿病感受性遺伝子あるいはその領域と言いますが、現在約50も見つかっています。ゲノム配列解読テクノロジーの進歩で、この数はもっともっと増えるのは間違いありません。

判明しているこれらの遺伝子の半数は、HLA(ヒト白血球抗原)と呼ばれる免疫システムのところにあります。これらの遺伝子はHLA抗原と呼ばれる特定のタンパク質を組み立てます。この抗原は自分の細胞を「自己」と認識させて、バクテリアやウイルス感染、寄生虫のような侵入物を攻撃する免疫細胞から、自分自身を破壊しないように守るものですが、あるHLA抗原は膵臓のベータ細胞を「非自己」と認識させると考えられています。こうなれば1型糖尿病のスタートです。他の自己免疫性の病気もこのHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子と連鎖してますから、相互の関わりが強いのでしょう。

残りの糖尿病感受性遺伝子の役割は不明です。

人間は多くのHLA遺伝子を持っていて、私たちは親からさまざまなHLA遺伝子の一つを受け継ぎます。1型糖尿病に関係の強い数種類のHLA遺伝子は分かっていますが、なぜかこれらの遺伝子を持っていても、1型糖尿病にならずに健康に過ごしている人が大勢いるのです。

病気の遺伝性を確認するには、家族歴と共に一卵性双生児の研究が大切です。一卵性双生児は同一の遺伝子ですから、遺伝性100%の病気なら片方が発病すればもう片方も発病します。1型糖尿病はどうかと言うと、単一の遺伝子ではなく多数の遺伝子の組み合わせですから、一卵性双生児の2人がそろって1型になるのは3ペア中1ペア(33%)から3ペア中2ペア(66%)までの報告があります。3ペアの一卵性双生児のうち、2ペアは片方が1型糖尿病になっても片方はならないのですから、「遺伝性は確かにある、しかし遺伝が全てではない。何かが引き金を引くのだ」となります。


1型糖尿病の環境因子

1型糖尿病感受性遺伝子を持つ人たちに「引き金」となるものは何でしょうか?以前から「自己抗体」「ウイルス感染」「食品添加物」「ニトロソアミンのような発ガン性のある化学物質」etc いろいろな説があり、それぞれの報告があります。

ところで、肥満による2型糖尿病の激増に隠れてあまり話題になりませんが、1型糖尿病の発症率もこの40年間で世界中で毎年3%ぐらい上昇しているのです。

今日のトレンドとして、1型糖尿病を増やしている元凶に、以下の3つの条件に疑惑の目が向けられています。

1. 日光不足によるビタミンDの欠乏
世界中で都市部への人口集中が進み、劣悪な住環境の中で人々が家に閉じこもるようになりました。その結果、子どもたちが日光不足になってビタミンDが不足している。ビタミンDが不足すると免疫システムが正常に働かない。だから世界中で1型糖尿病が増えているという説です。

動物実験でもビタミンD不足は糖尿病に結びつくという研究もあります。
そう言えば、英国に移住したインド人の家庭で1型糖尿病が増えているという記事を読んだ記憶がありますよ。

児童へのビタミンDのサプリメントで1型糖尿病の発症が29%減少したというメタ分析が2008年に発表されています。(Arch Dis Child 93:512-517 2008)

ベルギーの医科大学教授の「ビタミンD不足は1型糖尿病の原因ではない。しかし遺伝リスクを持っていればビタミンDを不足させないようにすべきだ」という言葉は説得力があります。
 
2.あまりにも清潔すぎる生活習慣
これも日本の花粉症のまん延と同源です。不衛生な発展途上国では免疫システムが正常にフル活動してアレルギーもアトピーも少ないのです。殺菌、滅菌グッズできれい過ぎて、体の免疫システムが誤作動してしまいます。

イェール大学の免疫学者が、ラットを超クリーンなケージで飼育すると1型糖尿病が増えるという報告をしていますよ。
 
3. 乳児のミルク
1980年代に研究者たちは母乳哺育された子どもは1型糖尿病になりにくいことに気づいていました。母乳には何か糖尿病を防ぐ成分が含まれているという説と、牛乳から作る粉ミルクに免疫系に作用する異質なタンパク質があるのでは?という説があり、現在アメリカで大規模な治験が行われています。結果が出るのは2017年以降です。

以上、簡単にまとめてみましたが、1型糖尿病というのは知れば知るほど、自分のせいではないことが分かりますね。

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