吟醸焼酎1アイテムで勝負する「吟香 鳥飼」

鳥飼

草津川の上流に位置する新しい鳥飼“自然”蒸留所

吟醸の米焼酎一アイテムのみで勝負するのが「鳥飼」だ。口伝によると創業は1600年代以前。「吟香 鳥飼」の発売は1996年。発売から今まで、銘柄は同じだけど、実に何百回というテストとマイナーチェンジを重ねているとか。この潔さはどこから来るのか。人吉市内にある旧蒸留所兼事務所から、草津(そうず)川沿いにある新しい蒸留所に、鳥飼和信社長自らの運転でご案内していただいた。

 

鳥飼

重厚な門を抜けるとそこはまるでスコットランドの森の中のよう

川沿いには自然のままの木や岩や水があり動物たちが生息しているのがわかる。この日、白く雪化粧した様子は、まるでスコットランドの蒸留所のようだった。

「しかし、少し前までここは放棄地でした」とのこと。社長は2000年よりこの流域の保全事業を行っているのだ。ここまで整備するのには莫大な費用と時間と情熱が必要だっただろう。

新しい蒸留所は、コンクリートを一切使わず、仕込みや蒸留時に出る水や生活水を、すべて持って帰るという。なにより大切な川とその周辺自然を守るためだ。ため息が出た。

 

鳥飼

鳥飼社長。オーストリアのグラスメーカー、リーデル社オーナーも訪れている

「球磨川が流れる人吉は、もともと瀬音が聞こえる町だった」と鳥飼社長。今の水量は昔の3分の1になってしまったとも。

「焼酎は日常(ケ)の酒でした。特別(ハレ)の日の焼酎を造りたい、乾杯に使われる焼酎を造りたいと取り組んだのが鳥飼です。そのキーワードは“華やかな吟醸香”でした。それを表現するには、減圧蒸留だと考えます」

「焼酎には、ほかの蒸留酒とくらべ苦味が伴う」と。これはワインや日本酒であれば個性になるが、焼酎の場合は弱点になるとおっしゃる。試行錯誤でマイナーチェンジを重ねた鳥飼哲学をテイスティングとともにうかがえる日が来るといいと強く思った。。

で、ご自分の酒はどうやって飲む?とうかがえば、「飲みません」と一言。気になってしようがない、辛くなるからと笑っておっしゃる。「自分の酒には誰よりも厳しい目を向けるべきだから」と。日頃は自分の舌の経験を豊かにするため、ワインや清酒、白酒、スコッチを飲まれるとか。「60年代のマッカランには落ち着きがあったけれど、80年代には傾向が変わった。マッカランといえどもさまざまな影響を受けているのです」
美しい“醸す森”に包まれた蒸留所でお話を伺ったひと時。もし、この瀬音が聞こえる蒸留所で一晩飲みながら過ごすことができたら、酒の精霊と会えるかもしれないと感じた。