別れの季節に読みたい友情物語
3月は、新入学や進級を控え心華やぐ時期ですね。けれど、仲良しのお友だちとお別れすることに、寂しい思いをするお子さんもいらっしゃることでしょう。そんなお子さんたちにウィリアム・スタイグの『ねずみとくじら』をおすすめします。読むたびに「友だちっていいなあ」と思える絵本です。住む世界が違っても、僕らは友だちなんだ
独学で航海術を学び、船まで作ったねずみのエーモスは、大海原へと出航します。憧れの船の旅は何もかもが素晴らしく、夢のような毎日が過ぎていきます。ところが、ある晩、エーモスはふとしたはずみに海へ投げ出され、海を漂うことに…… 疲れ切ったエーモスは、生きる望みを失いかけ、死さえ頭をよぎりました。そんな時、エーモスの前に現れたのが、くじらのボリスでした。彼はエーモスを助け陸へと返してくれました。その過程で、ふたりは互いを認め合い、友情を育んだのでした。
やがて時は流れ、年をとった2人に思いがけない再開が訪れます。ボリスが嵐にあい、エーモスの住む浜に打ち上げられてしまうのです。小さなねずみは、瀕死のくじらを助けることができるのでしょうか?
実は、エーモスは思いがけない方法でボリスを助けます。けれど、どれほど深い友情で結ばれていようとも、住む世界が違うくじらとねずみは、一緒に暮らすことはできません。海へと帰っていくボリスとそれを見送るエーモス。2人の姿が、あまりに潔くて、切なくて、ちょっぴり涙がこぼれてしまいそうです。そんな読者の心に、最後の文章がしみいってきます。
「さようなら なかよしのくじら」 「さようなら なかよしのねずみ」
ふたりは、このさき2どとあえないことを しっていました。
そしてぜったいに あいてをわすれないことも しっていました。(本文より)
共に暮らすことができなくても、自立し、お互いを尊敬しあうことから生まれる友情……2度と会えないとわかっていながら、「僕らは友だちだ」といえる2人の絆に心を打たれます。切ないけれど、何ともいえない清々しさを感じさせてくれる名作です。
【書籍DATA】
ウィリアム・スタイグ:作 せたていじ:訳
価格:1260円
発売日:1976/12
出版社:評論社
推奨年齢:4歳くらいから
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