そんな御仁には、冬の京都を勧めたい。
桜や紅葉の時期もそれはそれでよいが、どこに行っても混雑は避けられない。
その点、冬は静かでいい。月がきれいだし、燗酒もうまい。
この冬、とても素敵な京都滞在できる企画があるので報告したい。
同じ体験は、2012年3月4日までできる。
もし間に合えば、ぜひ体験しに出かけてみてほしい。
万象の町家
料亭が連なる木屋町通りの夕暮れ。古い医院の建物の脇の、誰もが見過ごすであろう路地を入る。
「人の家に入っちゃだめだよ」
彼女は思わず、そう言うかもしれない。そんな狭い路地だ。
先に、町家を持つ「庵」の方から、町家の鍵をもらっておいた。
そう。京の泊まりは、古びた京町家。
一棟貸しで、一日だけの賃借契約で借りる。
路地の突き当たりの千本格子の扉の奥は、ほんのりと明かりが灯っている。
「本当にここに泊まるの?」
そんな不安は、三和土から襖を開け、一歩室内に入るとかき消されるだろう。
「わあ」
そこには、天井まで届かんという、銀の滴る陶芸アートが畳の上に鎮座する。
陶磁器の染付職人として人間国宝を授かった近藤悠三を祖父にもつ近藤高弘の作品だ。
アート町家
京都市内に、外観はそのままに、内装は快適に改装を施した京町家を10軒運営し、一棟貸し予約を受け付けている「庵」では、この冬、そのうち4棟を使い、京都のアート作家とコラボレーションを組んで「アート町家ステイ」を実施している。日本画家であり、古美術収集家でもある畠中光享の作品が飾られた「品格の町家」。
築130年の丹波の豆問屋だった町家が、染色家福本潮子の藍色に染まる「藍の町家」。
映像作家大西宏志の「儚さ」を表現した影像作品が町家に映し出される「影像の町家」。
そして、凛とした鴨川の冷気と壁一枚隔てた町家に、近藤高弘の陶やガラス作品が置かれた「万象の町家」。
まるで、美術館に泊まっていると言っても過言ではない。
アートに囲まれてワインを酌み交わしたい。
アートに見守られて眠りたい。
そんな贅沢な一日を過ごすことのできる、知る人ぞ知るこの冬だけのイベントだ。