夜はインディ恒例のドンちゃん騒ぎ
土曜日の夜、インディアナポリスモータースピードウェイの周辺に行ったら、大変なことになる。スピードウェイ周辺には広大な芝生の土地があり、ここが観客のための巨大駐車場、キャンプエリアとして利用される。おそらく10万人以上がそこに集まるのだから、決勝レースに備えてゆっくり体を休めるなんてことはなく、朝まで飲んで騒ぎ、酔っぱらいながらあちこち練り歩くのだ。周辺道路には若い男女の集団がズラリと沿道に並び、好みの異性がクルマを運転していれば声をかけてコミュニケーションを取る。こんな感じで、インディ500のファンによる前夜祭は勝手に朝まで続くのだ。
夜も眠る事無く盛り上がる!
朝までどんちゃん騒ぎをされたら、周辺住民はたまったものではない。しかし、さすがに100年も続くイベントだけに、住民たちもどう振る舞ったらいいかをよく理解している。庭を誰かに託して駐車場として使わせ、自分たちはレースウィーク中旅行に出かけたりする家庭も多いそうだ。
また、これだけたくさんの人間が騒げば、当然のごとく大量のゴミが発生する。しかし、周辺道路も渋滞するし、その都度ゴミを回収していては追いつかない。レースが終わった月曜日(戦没者追悼記念日)の朝、市民ボランティアたちが休日を返上して清掃作業に当たる。観客席も同じで、ゴミは基本的には観客席にそのまま捨てて観客は帰っていく。
ゴミはゴミ箱へ、ではなく、ゴミは地面へ、が「インディ500」では許される…
スタンドに残った大量の空き缶もボランティアによって月曜日中には回収される。そのことがニュースで報じられているのを見て、インディアナポリスの人たちは何と寛容なのだろうと関心させられたものだ。どんちゃん騒ぎも大量のゴミも道路の渋滞も、年に1度の恒例行事と受け入れる姿勢には恐れいった。
決勝翌日に大量に出たゴミを片付ける人々
また、「インディ500」では最大40万人が来場し、大半が自家用車でスピードウェイにやってくるため渋滞が凄まじい。しかし、その渋滞を緩和するべく、警察が全面的に協力し、レース日の朝は周辺道路をスピードウェイへの一方通行にし、レース終了後はスピードウェイから各方面への一方通行にすることで、大量のクルマの流れをコントロールする。
いくら一方通行になっても渋滞はするので、VIPや選手、チーム関係者などを運ぶために特別な走行レーンをパトカー先導で優先的に走らせるエスコートサービスも行う。とにかく行政も警察も「インディ500」というビッグイベントをしっかりと支援しているのが大きな特徴だ。これらの事実は「インディ500」は地域にとって、社会にとって、それだけ大きな影響力を持つイベントであることを物語っている。
戦没者追悼など社会的メッセージの発信
「インディ500」が開催されるのは戦没者追悼記念日(メモリアルデー)の前日で、レース前のセレモニーには数多くのアメリカ軍人が参加し、全米に生中継されるテレビを通じてメッセージを伝える意味合いがある。セレモニーが始まる前には朝からパレードやマーチングバンドの演奏が延々と続き、やがて出場ドライバーを紹介する「ドライバーズプレゼンテーション」が始まり、ドライバーたちはレースに向けた準備を進めて行く。
そして行われるセレモニーには毎年恒例のパターンがあり、「God Bless America」の独唱、軍隊による戦没者慰霊の鎮魂歌の演奏、アメリカ国歌「Star Spangled Banner」の独唱、牧師による祈りの言葉などが行われる。
国歌斉唱のシーン。これらのタイミングでは朝からビールを飲み騒いでいた観客たちもピタっと騒ぐのをやめ、セレモニーの進行に集中する。セレモニーの進行と共にそれぞれに騒いでいた40万人の観客がひとつになっていくのだ。
そして、恒例となっているジム・ネイバーズ(インディアナ州出身のコメディアン)による「Back Home Again In Indiana」の歌を一緒に歌い、いよいよ有名な「Ladies and Gentlemen, Start Your Engines」のフレーズが宣言されると、全車がエンジンスタートし、ローリングラップへとそのまま入って行く。
毎年変わらないパターンの進行ではあるが、「インディ500」のセレモニーはアメフトのスーパーボウルのセレモニーと同じく、テレビを通じて全米をひとつにする重要な意味合いを持つイベントなのである。
「インディ500」は1911年の第一回大会から戦没者追悼記念日(メモリアルデー)に合わせて開催されている。100年の歴史の中でずっと“恒例”であり続けていることで社会的に認められる存在になったといえる。
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