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インディ500に学ぶ、100年続くモータースポーツ文化(7ページ目)

世界3大レースのひとつ「インディ500」の魅力をたっぷりとご紹介。ガイドが自ら体験した観戦記と共に、モータースポーツが100年愛され続ける理由も分析し、紹介します。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

全てをファンのために作るイベント

先にも紹介したように、「インディ500」を見物に来る観客は全員が熱心なレースファンではない。しかし、ファンがレースを楽しめるように最大限の演出がなされている。
モニター

自由席エリアにある順位が確認できるリーダーボード。


自由席エリアとなる芝生席からも巨大なモニターでレースの様子を見ることができるし、レース実況はエンジン音でほとんど聞こえないが、ラジオで流されている(コーナーごとに担当アナウンサーがおり、時にリレーで掛け合いながら実況する面白い実況スタイルだ)。また、各ドライバーとチームの交信が行われる無線の周波数も公開されており、マニアックなファンはこれをスキャンして聞き、レース展開を予測しながら楽しむのだ。

日本のように高い席の人のためだけに充実したサービスを、という考え方は「インディ500」にはまるっきし存在しない。一般席なら高くても150ドル(約12000円)で、一番安い自由席のチケットでもマシンが整備されるピットガレージの近くまで近づくことができるサービスぶりである。
インディ500

インディ500の決勝レース中の第1ターン、第2ターンのイン側から。写真はクラッシュ処理のコーションラップ中。オフィシャルが素早くマシンを撤去し、コースをクリアーにする姿もエンターテイメントだ。


また、先にも書いたように観客が騒いでいようが、「マナーを守って観戦しましょう」なんていう呼びかけは一切ない。お金を払ってくれた観客には自由に楽しんでもらおうという空気であふれており、観客をがんじがらめにしないところも「インディ500」がファンから愛される理由だ(もちろん、レース運営に関わる重大な違反や喧嘩は御法度。最低限のルールを守れば自由に観戦できる)。


「インディ500」から学ぶ、50年後の未来

ガイドが「インディ500」を現地で見て強く感じたことは、何のために誰のために「インディ500」というレースを開催しているかが明白、という部分である。全てはレースを観戦するファンのため、テレビを通じてイベントやレースを見る全米の人々のため、社会のためにベクトルが向いている。また社会もそのベクトルを後押ししようとしているような気がしてならない。
インディ

インディアナポリスモータースピードウェイ


昨年2月のNASCAR「デイトナ500」の時もそうだったが、アメリカ入国の際の入国管理官に「インディ500に行く」といえば一発で通じ、彼らは簡単なレースの世間話ができる。それくらいモータースポーツが社会に浸透しているというのは羨ましい。

日本のモータースポーツに目を移してみると、今年で日本初の本格的なサーキットとしてオープンした「鈴鹿サーキット」が50周年となり、まだ半世紀という、アメリカの半分の歴史でしかない。日本のモータースポーツはこの50年間、ヨーロッパやアメリカの見よう見まねで急速に発展を遂げ、何度か社会を巻き込むブームも作ってはきたものの、今も上がったり下がったりの波の中にいる。
50周年

鈴鹿サーキットは50周年


クルマに対する関心の低下を嘆き、自動車メーカーなどの関連企業もそれを何とかしようと「やる気」にはなっているが、好きな人の気持ちだけではブームは起きたとしても、それが永続的に続くとは思えない。また、魅力の押し付けになれば、いつまでも好きな人だけのもので終わってしまうかもしれない。興味が無い人にも伝わり、自然と愛されるようなものにならなければいけないと「インディ500」は教えてくれた。

100年に向けての折り返しとなる今から、50年先の未来に向けて、日本のモータースポーツはもう一度、そのベクトルをどこに向けていくかを考えるべき時にきていると感じるのだ。


【関連サイト】
インディ500公式サイト(英語)

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