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野菜の硝酸塩と糖尿病、事態は新しい展開に

新年の誓いとして、今年こそ野菜たっぷりのヘルシー食を!と意気込んでいる人も多いことでしょう。今回は、野菜に多く含まれる硝酸塩と糖尿病との関係について考察します。

執筆者:河合 勝幸

ビート

硝酸塩の多いビート(写真)のジュースが、認知症の進行を遅らせるというニュースは衝撃的でした。

新年の誓いとして、今年こそ野菜たっぷりのヘルシー食を!と意気込んでいる人も多いことでしょう。このところ、都会の野菜工場や東北の被災農地での大規模な施設農場開発の話題が豊富です。そのうち施設栽培の野菜に多くみられる硝酸塩と健康の問題が大きくクローズアップされるかも知れません。

まだ、はっきりと解決がつかない糖尿病と硝酸塩の問題も、意外な展開をみせつつあります。健康に対する根強い硝酸塩悪玉説と、全く逆に、野菜の硝酸塩善玉説が2010年頃から散見されるようになりました。
まずは硝酸塩悪玉説から解説しましょう。

『野菜が糖尿病をひきおこす!?』

こんな物騒なタイトルの本が宝島社新書から出版されています。著者は医療関係者ではありませんから、本来は1型糖尿病の話だったものを膨大な患者数の2型糖尿病に拡大解釈しているのは残念なことですが、ハムやソーセージなどに添加されている硝酸塩が、あるタイプの1型糖尿病の引き金になる可能性は30年も前から指摘されてはいました。

まず、硝酸塩については農林水産省のページ『野菜中の硝酸塩に関する情報』で簡明に解説されていますのでご一読ください。

飲料水、野菜類、ハム・ソーセージなどの加工肉に含まれる硝酸塩が体の消化管内でバクテリアによって亜硝酸塩に還元されて、更に胃の中で魚肉などに多く含まれる二級アミドと反応してニトロソ化合物の生成に関与するのでは?と心配している人たちが大勢います。
ニトロソ化合物のある物は発ガン物質なのです。

1981年にアイスランドのHelgasonとJonassonが医学誌ランセットに発表した論文が初めてニトロソ化合物が1型糖尿病の原因になる可能性を示しました。
冬は氷に閉ざされるアイスランドで、妊娠初期に保存用の塩漬けくん製羊肉(昔から肉の発色と殺菌のために硝酸塩を添加)をたくさん食べた妊婦から、1型糖尿病を発症する男児が多く生まれる事例が報告されていました。
なぜ男児かと言うと、食品由来のニトロソ化合物の活性が女性ホルモンのエストロゲンの下では抑制されて、男性ホルモンのテストステロンの下では活性化するのでは?というのがHalgasonらの仮説でした。
Halgasonらは、実験用マウスに1型糖尿病を発症させる薬品ストレプトゾトシンと同じようにニトロソ化合物を含む羊肉で飼育されたマウスの子孫(優先的にオス)に糖尿病を起すことが出来ました。ストレプトゾトシンはニトロソアミンの仲間です。

ただし、食品添加物の硝酸塩がヒトの1型糖尿病の原因の一つになるという仮説はデータが限られていて、追試の結論が一定していません。これらの疫学研究ではニトロソ化合物の摂取量も不明ですし、そもそも十分すぎる程の安全係数を採っている食品添加物の硝酸塩に毒性があるかどうかも定かではないのです。結論はでていません。

ところで、食品から摂取する硝酸塩/亜硝酸塩/ニトロソ化合物は、実際には加工肉よりも圧倒的に野菜のほうが多いのです。窒素(硝酸塩)・リン・カリウムは植物の三大栄養素だからです。
そのため、「一日350gの野菜を食べよう」と奨励している農林水産省を始めとして、世界中の組織/機関が野菜に含まれる硝酸塩の影響をチェックしていますが幸いにして問題は起きていません。

もちろん、野菜の硝酸塩が1型糖尿病をひきおこすという科学的根拠はないと思います。
もっとも、乳幼児はだ液や胃液の分泌が十分でなく、硝酸還元菌を殺す胃酸(塩酸)分泌も弱いため、より危険な亜硝酸への変換が成人の2倍になると考えられるので、早期の離乳食でホウレンソウのピュレなどをたくさん与えることは避けるようにしましょう。
WHO(世界保健機関)は糖尿病とは関係なく1歳児まではオーガニック野菜を使うように勧めています。

肥満に伴う2型糖尿病の激増と共に、小児1型糖尿病も毎年4%ずつ増加していることから、公衆衛生学の分野では環境要因の1つとしてこの食品成分の硝酸塩が相変わらずマークされています。論文から推測すると、ニュージーランドのオークランド大学や米国のハーバード大学公衆衛生大学院、コロラド大学公衆衛生大学院などは、どうも硝酸塩有罪説の立場のようです。

ポパイのホウレンソウは伊達(だて)ではなかった!?

これは本のタイトルではありませんが、こうやって野菜をはやし立てたくなるような論文が続いています。
野菜が多く含む硝酸塩善玉説です。

2010年10月12日号のPNAS(米国アカデミー紀要.米国科学アカデミー発行)にMattias Carlstromらスエーデンの科学者が「食餌中の硝酸塩が、一酸化窒素合成酵素をブロックしたマウスのメタボリックシンドローム症状を回復した」という興味ある論文を発表しました。

メタボの根源にインスリン抵抗性があることはいろいろな記事に書きましたが、メタボや2型糖尿病になると高血圧になりやすいのは、インスリンが血圧にも大きく関わっているからです。
一つの役目としてインスリンは血管をリラックスさせて血流をよくし、血圧を下げる物質NO(一酸化窒素)の生成を促進させます。
インスリン抵抗性が強くなる(インスリンが効かなくなる)と血管内皮細胞が生成するNOが減少します。
ところが、食餌や水で十分な硝酸塩を取るとNO生成が回復したというのがこの論文の要点です。実験では血圧だけでなく、トータルでメタボが改善できました。
体がNOを生成するときはアルギニン(アミノ酸)を分解するのですが、体外から取った硝酸塩がこの経路を代替できることを証明したと思います。

実験では正確に餌や水の硝酸塩を計量しましたが、人間ではどのくらいの硝酸塩を摂取すると効果が期待できるかと言うと、なんと野菜をたっぷりと取ることで十分なのだそうです。
これで「新年の誓い」が守れますね!

同様の研究が他の分野からも発表されています。
2010年11月にはウェイクフォレスト大学(米国ノースカロライナ州)の研究者が「ビートジュースを飲むと、脳への血流を増加させる」ことを発表しています。
ビートジュースが血圧を下げるのはすでによく計画された研究で明らかにされていましたが、高齢者の脳の血流をよくして認知症の進行を遅らせるために、硝酸塩を多く含むビートジュースが選ばれて、見事にMRIで確認されました。
硝酸塩を高濃度に含む野菜は、ビートだけでなく、ホウレンソウ、小松菜、ハクサイ、セロリ、レタスなどの葉野菜です。偏らずに多品種を召し上がれ!

以上は野菜の硝酸塩に限った話です。過剰な施肥が招く土壌や地下水、河川の富栄養化や温室効果のあるNOxを防ぐために農業者は施肥の適正に取り組まなくてはなりません。

■関連リンク
農林水産省/野菜等の硝酸塩に関する情報
柔軟な菜食…フレキシタリアンも糖尿病食におすすめ!
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