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介護を行う上での心の準備

初めて介護を仕事に選んだ時、現場に関わっていけばいくほど、「これでいいのかな?」「これが介護なんだろうか?」という戸惑いが出てきます。その理由の一つは受け手である要介護者の感じ方によって介護の質が左右されるからです。そこで介護者がやりたい介護ではなく、要介護者が望む介護を提供していくことが大切になってきます。ここでは要介護者と向き合う心の準備をお伝えします。

井上 ルミ子

執筆者:井上 ルミ子

介護・福祉業界で働く・転職するガイド

介助と介護の違いを理解し介護の視点を持つ

考える姿

介護について考えてみましょう

介護とは不自由になった身体の部分のお世話をすることを思い浮かべるのではありませんか。ベットから車椅子に移乗したり、食事介助や排泄介助など自分一人では出来なくなった日常生活の動作をサポートしていくことはなくてはならない介助動作です。介護職員で携わる場合、このような行動のサポートである「介助」の範囲を超えて、さらにその人の体調や心の動きを含んだプロセスをサポートする「介護」を提供することが求められます。

高齢者と孫

自分の祖父母に介護を求められたことを想像してみてください

ではここで介助と介護の違いを身近な例で説明してみましょう。あなたのおばあちゃんはあなたの助けなしにはトイレに行くこともご飯の用意もできない状況です。おばあちゃんに対してあなたが望むものは何でしょうか。あなたが話す言葉によって不安が消えたり、沈んでいた気持ちが楽になったり、大笑いできたり、寂しさを忘れたり、前向きな気持ちになったりと、介助を通じて自律(生きる力)を与えることが介護の意味であり、介助と介護の違いだと言えます。

もちろん身近なおばあちゃんを介護するのと、全く面識のない人を介護するのとでは大きな差があります。ここが介護職の難しさであり、またやり甲斐でもあるかと思われます。施設で働く場合など、全く面識のない高齢者が何十人と生活しています。そこで介護の力を発揮するにはどうしたらいいものかと戸惑うのが普通だと思います。そのために大切なのは心構えとも言えます。介助と介護の違いを理解し、仕事にあたって心の準備が出来ていれば例え初めてであっても戸惑うことなく仕事ができると思います。

介護の対象者は人生の終盤に差し掛かっていることを理解する

同じお世話をする仕事でも幼児は成長とともに出来る行為が増えますが、介護の対象者である高齢者は時間の経過とともに出来ない行為が増えていきます。現在の高齢者は戦争や物の無い時代にあっていかに心豊かに過ごしてこられたのか、大切な家族の絆をどのように守ってこられたのか、己の信念や真情を確立させ社会のさまざまな集団の中で互いに役立ち助け合い今の世の中が確立してきました。

今は築きあげた現在の平和を現役世代に引き継ぎ人生の最終ステージを迎えている段階です。その人が歩んできた人生にも興味を持つことでその人らしさがサポートできるのではないでしょうか。

介護は利用者のテンポに合わせることが大切

私たちは高齢になると視力が衰え足腰も弱くなることは知っていますが、実際は体験したことが無い未知の世界です。福祉フェアーなどでは高齢者の擬似体験ができるコーナーもありますが、実際に擬似体験も経験し高齢期に入られた方からは現実はもっと重たさやだるさを感じるものだったと言われます。いくら想像しても当事者でないと分からない部分だという事です。

人にはそれぞれ、食事をする、話しをする、行動を起こす場合などにおいてその人なりのテンポやタイミングが存在します。行動を急がされ、その作業を済ますことを目的として介助が提供されることでどんな気持ちになるでしょうか。自分でやろうと努力していた部分でさえ出来ない意識に変化させてしまいます。介護職員が提供する時間やテンポが利用者と違うことを頭の片隅に置き配慮を忘れないように心がけましょう。

楽しみの時間を提供する

屋台でくつろぐ老人

楽しみは生きがいに繋がっています

私達は仕事が終わった後や休みの日に自分の好きなことをして過ごします。要するに自分の楽しみを見つけ、その場に訪れたり選択することが出来ます。しかし往々にして介護が必要となるとそれを許さなくなってしまいます。昔のようにバスに乗って街に出かけたり、趣味の場に出向くことができません。生きる楽しみの提供も介護職員次第だということです。

楽しみや希望の多くは過去の経験と連動しています。洋裁がすき、ダンスが好き、何処どこへ行きたい、映画がみたい、囲碁や将棋がしたい、静かに音楽を聴きたいなど人などそれぞれです。過去に遡って聞いてみるとよいでしょう。施設で計画するレクリエーションにおいても、皆それぞれ自分にあったメニューを楽しみにされています。

利用者への敬意を表す方法が接遇です

介護職員の利用者に対する尊敬の思い、気持ちや心遣いなど目に見えない心の内を届ける方法が接遇です。挨拶、声かけ、言葉、態度、身だしなみなど普段当たり前に行われている行動の中に届けるチャンスは含まれています。介護職員の笑顔や敬意を込めた接し方は利用者が安心できる大きな要因です。

介護場面では利用者の最期に出会います

人は誰もが人生の最期を迎えます。自宅で亡くなる人、病院で亡くなる人などさまざまです。訪問介護であれ、施設介護であれ親しく関わってきた利用者とのお別れの時が約束されています。必ず最期を迎える対象者であるからこそ、有限な時間を意識して一人ひとりを尊重し納得のいく人生の手助けに携われるのも介護職であるということです。長い人生の終末期、その尊い時期に接する重みを実感し後悔のないよう関わりましょう。

これから介護を志す方々にもそれぞれの心に初心が芽生えます。自分がなりたいと思う介護者のイメージや介護観はとても貴重なものです。介護の仕事がスタートしてもその気持ちを維持し高めるためにも、時々「初心忘れず」を振り返ってみましょう。
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