生命保険信託のポイントと注意点をわかりやすく解説
生命保険信託の取り扱いが、ごく一部の保険会社・信託銀行で始まっています。もともと2010年頃からプルデンシャル生命が取り扱いを開始したのが最初です。 まだまだ信託そのものが一般の人には馴染みにくいところがあります。生命保険信託とはどのようなもので、どんな使い方をすれば有効なのでしょうか。生命保険信託に注目しつつ、そのポイントと注意点について解説します。<目次>
生命保険信託とは何か?
信託とは信託銀行などに信託行為(契約や遺言)でお金や土地などの財産を移転、信託銀行ははじめに設定された信託の目的に従って財産の管理や処分を行う仕組みのことです。生命保険信託は生命保険契約の死亡保険金等についてこの信託の仕組みを使った制度です。本来信託契約はある程度まとまった財産が必要なため、一般の人には馴染みが薄かったわけです。
しかし生命保険信託の場合、保険金という財産を信託契約の目的にするため多額の財産などが最初から必要なわけではありません。必要なのは生命保険契約の保険料と信託契約のコストです。
その意味では信託というものが多少なりとも身近になったと言えるでしょう。いくつかの生命保険会社でも取り扱いを始めており、保険金額の設定も当初よりも引き下がっています。
生命保険信託と生命保険は何が違う?
通常の生命保険契約では、保険金の受取人を指定しますが、特定の人を保険金の受取人にできるため、相続対策などでも生命保険はよく利用されます。この生命保険契約において保険金の受取人とすることができるのは一般的には妻や子、親・兄弟姉妹などの家族です。しかし生命保険信託を利用することで家族や親族以外の者(個人、法人)を保険金の受取人とすることも可能になりました。
例えば生命保険の受取人を自分の子どもにした場合、子どもは保険金を受け取ることができます。しかしもし子どもが障がい者であった場合、自分の意思で受け取った保険金の管理などをすることはできません。
そのため保険金の管理を誰か身内や親戚などがすることになります。その場合必ずしも障がい者である自分の子のためにきちんと保険金が使われるのか親として不安が残るのは事実です。
しかし生命保険信託であれば、具体的に保険金の使用目的などを指定すれば信託銀行が契約に基づいて目的通りに使われたかをチェックする機能があるのです。
生命保険信託のメリット、デメリット
生命保険信託の特徴をいくつか述べましたが、仕組みである以上はメリットとデメリットがあります。まずは以下について確認してください。■メリット
・保険金を「誰に」「いつ」「どのように」渡すかを個別のニーズに合わせて決められる
■デメリット
・保険料以外に信託に伴う別のコストが必要(通常の生命保険よりコストがかかる)
生命保険信託は保険金の行きつく先や使い方を自分の要望・希望通りにできることが最大のメリットです。信託契約をすることで財産管理をお任せするのでその分コストが必要です。
この場合かかるコストは主に次の通りです。一つの例として参考にしてください。
・信託契約締結時
5千円~5万円程度(税抜き)
・金銭信託中の管理手数料
年間2万円(税抜き)
・保険金受取時
分割 保険金総額の2%(税抜き)
一括 一律10万円(税抜き)
※コストは保険会社ごとに異なり、同一金額ではありません。
他に、保険金受領後の信託財産運用中にかかる運用報酬や定例管理報酬、中途終了に伴う手数料が取られることなどがあります(これも会社によって異なる)。生命保険信託の必要な期限が決まっている場合(子どもの成人までなど)、それまで自分が生存していればそれ以上信託契約は必要ありません。
柔軟に対応すればコストを下げる工夫はできる可能性もあります。
尚、生命保険契約の保険金額はプルデンシャル生命がはじめたときは最低3,000万円でしたが、いまは引下げ傾向です。
生命保険信託の事例、具体例
生命保険信託の利用はさまざまなケースが考えられますが、いくつかよくある具体的な例で利用方法を挙げてみます。- 障がい者、認知症、要介護状態の相続人(子どもや親など)がいる
- 事実婚の配偶者と子どもがいる
- 未成年の子どもがいる(成人までの財産管理等)
- 会社経営者が特定の人に事業を継がせたい(子どもはいるけど別の人) など
また、シングルマザー(シングルファザー)家庭で、子が成人するまでに万が一のことがあれば、生活費や教育費に保険金を確実に使ってほしいなど、様々なケースがあります。
生命保険信託を取り扱う生命保険会社
生命保険信託の取り扱いは保険会社ではまだまだ一部です。少しずつ増えていますが、取り扱い先を紹介しておきます(順不同。一部PDFファイル)。 4社ありますが生命保険信託の仕組みに入っている信託銀行が同じところもあるので、商品が似たかたちのものもあります。販売窓口としてはこれらの生保があるということです。なお、保険会社によって対応する地域を限定していたり、特定の加入ルートのみなどになっているケースもあります。
生命保険信託の今後の可能性
生命保険信託は生命保険とは別に信託に関してのコストが別途必要になります。当然コストに見合うかどうかはよく吟味しなくてはなりません。今後相続そのもののあり方や考え方も変わってくることが予想されます。生命保険信託も保険金という財産を遺すため相続との関わりを無視できません。
遺言書の作成や財産管理であれば成年後見制度などの選択肢もあります。考えられるさまざまな方法を検討してその一つに生命保険信託を入れてみるといいでしょう。
実際に相続や信託というのは一般の人にとって自分に関係ないものと思っている人が多く、特に対策を取らない人も多いのが現状です。生命保険信託は一つの方法ですが、より一層普通の人にも馴染みやすく、使いやすい制度になることを期待します。
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