「斎藤家」がまるごとハイセンスな宿に変身
ヒグラシの声に誘われて、夏の日の夕刻、田んぼと黒豆畑に囲まれた集落丸山に到着。切妻入母屋の見事な古民家ばかりが立ち並ぶ。家紋が標されたトタン屋根の内側は今でも茅葺きだそう。バスは週に4本。金曜日だけ、やってくる。トンボ舞う景色を見ながら、思わず、陽水の「少年時代」を口ずさんでいた。車を置くと、作務衣姿の管理人、佐古田純子さんがやってきた。佐古田さんは実際にこの集落に生まれ、今でも住み、宿泊者の世話係をやってくれている。この他、お客さんが多いと集落の人たちが手伝ってくれるという。
丹波・篠山地域では同じスキームで古民家宿が増える計画だという。これから、古民家を集落ごと再生し、「集落全体を一軒の宿とみなす」新しい「集落ツーリズム」が篠山地域から花開いていくことだろう。
テレビや時計は置いていない。古材をそのまま使い「昔に戻す」手法で快適に滞在できるよう、見ごとに改装されている。バスルームやトイレはホテル並みに改装されているが、五右衛門風呂(現在は給湯式)も残されている。再生のデザインセンスに思わず脱帽した。
準備ができたらいつでもいいですよ、と頼んでおいた夕食に呼ばれた。夕食は、「ひわの蔵」でのフレンチか、車で3分程離れた蕎麦懐石の名店「ろあん松田」、といういずれもハイエンドな店から選ぶ。
フレンチのカリスマの「蔵」へ
私が今回選んだのは、神戸・北野町のフレンチの名店「ジャンティ・オジェ」オーナーシェフ高柳好徳さんが、神戸の店を弟子に任せ、篠山にやってきて構えた「ひわの蔵」。宿泊している「ほの穂」の納屋を改造したオープンキッチンの店だ。「どうぞー」と遠くから高柳シェフの声。烏骨鶏の遊ぶ中庭をまたいで、「ひわの蔵」へ。そこはまさしく、高柳さんの小宇宙。クラシック時計やワイングラスが飾られ、ワインが冷やされた8席のカウンター越しには様々な食材が用意されている。「田舎で耕作しながら料理を提供したい」という自らの願いをかなえたシェフの料理に期待が高まる。
コースで提供されるのは、目の前の畑で採れた新鮮な野菜や、里山のきのこ。それに、フランス直輸入のジビエなどが加わる。季節になればもちろん、篠山産のイノシシなども加わるだろう。
店を出ると、気持ちいい夜風が頬をなでた。
極上の朝食は、蕎麦懐石名店の監修
朝食は、土間に続くダイドコに作りに来てくれる。それまでは、ゆっくり寝室で寝ていよう。もそもそと起き、朝食の時間に和室に行くと、蕎麦通の間で「関西の至宝」と呼ばれる「ろあん松田」監修の朝食が用意されている。なんて贅沢なのだろう。ごま油が絶妙なきんぴら。蕎麦店で使っているおダシでいただく冷や奴。3年寝かせた黒豆味噌の味噌汁、等々。この朝食をして、最高の朝食といわず何と言おう。
チェックアウトは11時。それまで、もう一度、朝風呂に浸かってもいい。
教えたくない自分の故郷が、篠山に一軒できた気がした。
■ 集落丸山
住所:兵庫県篠山市丸山30
TEL:079-552-5770
地図:Yahoo!地図情報