「頸椎ヘルニア」とは……首に発生した椎間板ヘルニア
脊椎と脊椎の間には椎間板と呼ばれる軟骨組織があります。首にある脊椎(骨)の間に椎間板はあります
椎間板は中心が柔らかい髄核とその周りを繊維性軟骨組織からなる繊維輪から構成されています。この繊維輪が破れ髄核が外側に飛び出ると炎症が発生します。さらに髄核が脊髄や神経根を圧迫し、疼痛やさまざまな神経症状が出現します。これが椎間板ヘルニアです。首に発生した椎間板ヘルニアを頚椎ヘルニアと呼びます。
線維輪から飛び出した髄核。これがヘルニアです。神経を圧迫します
以下の記事は実際の患者さん(60歳・男性・Aさん)のケースを元に、その体験を加工して記載してあります。Aさんは頚椎ヘルニアを発症しました。頚椎ヘルニアの症状、診断、治療などの理解を深めて下さい。
頚椎ヘルニアの症状……頸部の痛み、上肢や胸部の痛みやしびれ
Aさん「お正月明けに左肩が上げにくくなりました。同じ時期に頚部の痛みが出現しました。この経験はいままでなかったので近くにある整形外科のクリニックを受診しました。」Aさんに起きたのは、「筋力低下」という運動神経の症状です。
またAさんに見られなかった症状として、上肢の痛み・しびれ、胸部の痛み・しびれなどがあります。通常は頚部の痛みのため病院を受診します。手の細かい運動に制限がでることもあります。
頚椎ヘルニアの検査・診断・費用
■単純X線(レントゲン)Aさんがクリニックで撮影した単純X線写真です。
頚椎単純X線の側面像
単純X線写真は放射線被爆量も少なく、費用もわずか。その場で撮影も終了し当日説明をうけられるので、整形外科では必ず施行します。
頚椎は7個、体の中央にあります。頭側は頭蓋骨と関節でつながり、足の方向では胸椎とつながっています。7個の頚椎の間にはさまる構造が椎間板という軟骨です。椎間板が変性し脊髄や神経根を圧迫するのがヘルニアです。Aさんの写真では、第4頚椎、第5腰椎の間の距離、第5頚椎、第6頚椎の間の距離が狭くなっています。椎間板はレントゲンには写りませんが、スペースとして認識できるのでおおまかな情報は得られます。
単純X線で異常があるだけでは病気としてヘルニアを診断することはできません。なぜなら病気でない正常な人にレントゲンの異常が高率に見られます。
次にMRI撮影の予約、投薬(鎮痛剤、胃薬)、牽引療法の指示が出ました。費用は初診、3割負担の健康保険で3,000円ほどでした。
■MRI
MRIは専用の病院で撮影を行いました。
MRI写真 頚部脊椎が前方から強く圧迫されています 椎間板が狭くなっていることもレントゲンより鮮明にわかります
MRIは磁気を使用して人体の断面写真を作成する医療用機器です。被爆がないのが最大の特徴です。欠点は費用が約1万円程度と高額な点、狭い部屋に15分間ほど閉じ込められて、騒音が強いことです。脳外科の術後で体内に金属が残っている人、心臓ペースメーカー装着の人、閉所恐怖症の人などではMRI検査が無理なため、CTで検査を行います。CTはMRIより費用は5,000円程度と安くなりますが、被爆があります。
MRIではコンピュータで計算した各種の画像がみられ、脊髄の画像も得ることが可能です。
脊髄(脊柱管)の画像。3ヵ所で脊髄が狭くなっていることがわかります
頚椎ヘルニアの治療・薬・手術
■安静ヘルニアの症状は突然の疼痛とその後の著明な疼痛の軽減ないし完全な消失が特徴。あわてて治療を進めるのではなく、我慢できる範囲の疼痛などであれば安静にして経過をみるのも一つの選択。通常6~8週間の経過で半分以上の方が軽快します。
■鎮痛薬
ボルタレン、ロキソニンなど非ステロイド消炎鎮痛薬( NSAIDと省略されます )を用います。
・ボルタレン…1錠15.3円で1日3回食後に服用。副作用は胃部不快感、浮腫、発疹、ショック、消化管潰瘍、再生不良性貧血、皮膚粘膜眼症候群、急性腎不全、ネフローゼ、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、肝障害、ライ症候群など重症な脳障害、横紋筋融解症、脳血管障害胃炎。
・ロキソニン…1錠22.3円で1日3回食後に服用。副作用はボルタレンと同様。
どちらの薬でも胃潰瘍を合併することがありますので、胃薬、抗潰瘍薬などと一緒に処方されます。5年間、10年間の長期服用で腎機能低下などの副作用がありますので、注意が必要。まれに血液透析が必要となる場合もあるので、漫然と長期投与を受けることはできる限り避けて下さい。
鎮痛薬の問題点は数ヶ月以上の服薬で胃腸症状、腎機能低下が高率に発生しますので、急性期を過ぎたら主治医と相談し、減量ないし休薬を考えましょう。
■神経再生薬
・メチコバール ビタミンB12…障害された神経の修復を促進させる作用を持ちます。1錠21.1円を1日3回服用します。後発薬では5.6円のものが複数あります。4週間の服用で64%の改善率があります。副作用ですが、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、発疹などがあります。
■リハビリ
ヘルニアでは牽引のリハビリが有効です。Aさんは週3回の通院を1ヶ月間行いました。多少の改善は認めましたが、筋力低下は消失することはなく、日常生活の不便さは解消しませんでした。
そのため手術治療を考慮して、クリニックの紹介で総合病院の整形外科外来を受診しました。
■除圧椎弓切除術
神経に対する圧迫を除去するために、骨成分である脊椎の椎弓と呼ばれる部位を切除する手術です。人体の後方からアプローチします。
椎弓切除術。広範囲に骨を切除し、神経に対する圧迫を解除します
この手術は骨切除だけの手術であるため合併症は少なく、手術時間も短いです。Aさんの場合、第4頚椎から第7頚椎までの除圧と脊柱管の拡大手術を受けました。手術時間3時間、術後の経過も良好で入院12日間で退院となりました。
術後の頚部X線の側面像。金属は入っていません
健康保険を使用し3割負担で25万円の費用でした。高額医療のため2ヵ月後に17万円が健康保険の組合から還付されました。
退院した時点で左上肢の筋力がまして左肩が上がるようになりました。術後の痛みもそれほど強くなくAさんは満足しています。
■脊椎前方固定術
ヘルニアが正中にあり、後方からのアプローチが難しい場合、頚部の前方からの手術が必要となります。椎間板を切除し、腸骨移植とプレート固定(チタン製の金属の板)を行います。
前方固定術の術後単純X線像
現時点でヘルニアの手術の有効性を完全に証明した論文はありません。可能であれば手術以外の治療で病気が落ち着くのを待ちますが、痛みや日常生活の制限のため手術が必要と判断することもあります。高度な技術が必要な手術ですので、実績と信頼のもてる主治医を選ぶことが大切と思います。
【関連記事】