「少年時代」が似合う旅
「いっせのーせー」で川へ飛びむ子供たちの姿。都会暮らしでは叶うこともなかったので羨ましく眺める。緑の稲穂がそよぐ農道をドライブしながら歌いたくなるのは陽水の「少年時代」。子供の頃の夏休みにあったワクワク感がよみがえってくる。今回の旅先は日本一の清流と呼ばれる四万十川の中流域にある窪川町。その清流で育つ夏の味覚「アユ」を先ずはいただき、あまり知られていないが、四万十地区にある隠れた秘湯に入ってしまおうという贅沢な魂胆だ。
おばあちゃんの家に泊まる
高知から特急や車で約1時間で四万十町の窪川に着く。今晩は、ご主人が火振り漁の川漁師の資格を持つ松葉川屋に宿を取った。途中、朝露に輝く稲穂の中にたたずむ一斗俵沈下橋を通る。川が増水しても水が橋の上を流れるように欄干のない沈下橋は四万十川ならではの光景だ。最も古い一斗俵沈下橋は文化財にも指定されている。
松葉川屋は4代がそろう山脇さん一家が営む民宿。若女将が温かい笑顔で迎えてくれた。帰省した若い世代が泊まれる場所を作りたいと3年前に開業した。宿は一日2組限定の一棟貸し。隣には一家が住む母屋がある。おばあちゃんが七輪でアユを焼き始めると飼い猫のシマちゃんがそわそわし始めた。
受け継がれる幻想的な漁
ダムがなく、生態系が保たれていることから「日本で最後の清流」と称される四万十川の上・中流域では、かがり火を振りながらアユを仕掛けに追い込む「火振り漁」が今でも行われている。
四万十のアユは多様な漁法で獲られているが、火振り漁は夏の風物詩。暗闇に小舟を浮かべ、光に敏感なアユを灯りで網へ追い込んでいく。今では少なくなったこの漁法を続けられるのは、相当数が生息できる自然が残っているから。
「でも全部は獲らないよ」と宿の主人であり火振り漁師でもあるお父さん。四万十には清流を守るルールがある。火振り漁は7月中旬から10月中旬まで。漁は川の水量に左右され、毎日は行われないが、運がよければ夜の川に乱舞する幻想的な灯を見られることだろう。
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