第35回世界遺産委員会速報
2011年6月、フランスのパリで第35回世界遺産委員会が開催され、日本の「平泉」や「小笠原諸島」を含む25件の世界遺産が新たに誕生し、世界遺産の総数は936件、うち日本の物件は16件となった。また、タイが世界遺産条約から脱退を表明するといった事件も起こった。今回は速報記事として新登録の全世界遺産と危機遺産リストの変更点、拡大された世界遺産などを紹介する。なお、本記事はユネスコの公式サイトの情報を参考に構成した。
新世界遺産25件誕生、世界遺産総数936件へ!
「グレートリフトバレーのケニア湖水システム」登録のナクル湖。無数のフラミンゴが湖畔をピンクに染める。手前はクロサイ
「平泉‐仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」の構成物件である中尊寺
国別に見てみると、アラブ首長国連邦(UAE)とバルバドスにははじめての世界遺産が誕生した。また、ドイツが3件も登録数を増やして計36件となった。世界遺産をもっとも多く持つイタリアは2件増やして47件となり、1件増やした2位スペインの43件をさらにリードした。日本は15位だったが2件増やして14位に上昇した。詳細は記事「数字で見る世界遺産」参照。
これで世界遺産の総数は936件、うち文化遺産725件、自然遺産183件、複合遺産28件、日本の物件16件になった。
なお、2012年の第36回世界遺産委員会で世界遺産条約採択より40周年を迎える。日本の物件の審査予定はない。
悲願の登録=小笠原諸島&平泉、残念=国立西洋美術館本館
小笠原諸島の父島にあるハートロック(千尋岩)
2010年に構成物件を整理し、白鳥舘遺跡や長者ヶ原廃寺跡、骨寺村荘園遺跡などを外して「平泉‐仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」として再推薦。浄土思想をより全面に押し出し、今回の登録を勝ち取った。なお、ICOMOSの勧告のとおり登録にあたって柳之御所遺跡は除外された。外された遺跡は今後拡大登録を目指すことになりそうだ。
一方、2007年に暫定リスト入りした「小笠原諸島」は、隆起して誕生して以来、大陸とも日本列島ともつながったことのない孤島群。固有種の宝庫として知られるが、他の地域からもたらされる外来種が生態系を壊しているということで、その対策が課題とされていた。IUCNは外来種の多さを指摘したものの、固有生態系の価値と外来種の捕獲や拡散防止の努力を認め、今回の登録に至った。
東京上野の国立西洋美術館本館
フランスを中心に日本・スイス・ドイツ・ベルギー・アルゼンチンの6か国共同で推薦したこの物件、ICOMOSの事前調査は「不登録」という最悪の結果で、世界遺産委員会でも「登録延期」ということで、登録はならなかった。ICOMOSはその理由として、近代建築運動をル・コルビュジエだけに代表させるのは不適切である点、19件が選ばれた理由が不明確である点などをあげた。といっても、フランスのサヴォア邸やユニテ・ダビタシオン、ロンシャンの礼拝堂などについてはその価値を認め、単独の世界遺産登録の可能性も指摘した。
今後ル・コルビュジエの作品群が個々に世界遺産を目指すのか、あくまでトランスパウンダリー・サイト(国境をまたがる物件)として挑戦するのか定かでないが、国立西洋美術館本館の世界遺産登録が厳しくなったのは間違いない。
なお、世界遺産委員会は推薦された物件を「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」(「登録」を「記載」と訳すメディアもある)の4段階で評価する。不登録となった場合は同じ内容での再挑戦はできい。