流産の基礎知識/流産の種類

化学的流産・ケミカルアボーションの原因や症状とは?

化学的流産(ケミカル・アボーション)とは、受精卵が着床をして妊娠反応が陽性になった後、超音波検査で子宮の中に胎嚢が見えてくる前に、発育が止まり、生理用の出血が起こることをいいます。妊娠検査薬の感度が高くなることで、陽性反応がでるようになり、この概念が一般にも知られるようになりました。

竹内 正人

執筆者:竹内 正人

妊娠・出産ガイド

化学的流産(ケミカル・アボーション)とは?

着床して妊娠反応が出ても、胎嚢という袋が見えてくる前に発育が止まり生理様の出血が起こることを化学的流産という

着床して妊娠反応が出ても、胎嚢という袋が見えてくる前に発育が止まり生理様の出血が起こることを化学的流産という

■化学的流産・目次

化学的流産は着床後に発育が止まり、生理用出血が起こること

化学的流産は着床後に発育が止まり、生理用出血が起こること

化学的流産は着床後に発育が止まり、生理用出血が起こること

ひとつの精子とひとつの卵子が受精し、その受精卵が子宮内膜に着床したことをもって妊娠といいますが、着床をしても、その発育が途中でとまり、出産にいたらない場合も多くあります。その時期により流産(初期、後期など)、死産と分類されますが、着床して、妊娠反応が陽性になった後に、超音波検査で子宮内に胎嚢(たいのう/GS:Gestational sac)という袋が見えてくる前に、発育がとまる場合を化学的妊娠(Chemical Pregnancy:ケミカル・プレグナンシー)といい、それに引き続いて起こる生理様の出血を化学的流産(Chemical Abortion:ケミカル・アボーション)といいます。

化学的流産の出血は、生理と比べると量が多くて長いなど、いつもの生理とは少し違っていていることが多いのですが、あまり変わりがないこともあります。


化学的妊娠で妊娠検査薬で陽性反応が出るのはなぜ?

妊娠は、子宮の中に受精卵が着床することでスタートします。着床した受精卵は、これから胎盤となっていく絨毛という組織をつくりますが、この絨毛から、hCGというホルモンが分泌されます。かつては、化学的妊娠では妊娠反応が陽性にはなりませんでしたが、hCGの測定感度が上がったことで「生化学的妊娠」と診断されることが多くなりました。妊娠反応の感度が高くなることで、陽性反応がでるようになり、この概念が一般にも知られるようになったのです。

化学的妊娠は、何の異常もない若い健康なカップルでも、30~40%と高率に起こっていますが、最近は、妊娠のことを頭においていたり、早い段階で産婦人科を受診される傾向があるため、生理が遅れるとすぐに妊娠検査を行う人が増え、化学的妊娠と診断されることも多くなってきているのです。
 

初期の着床異常は受精卵の染色体異常が原因

着床しても妊娠が継続しないほとんどの理由は、受精卵の染色体異常によるものです。実は受精卵の約45%に染色体異常があると言われています。その内訳ですが、受精する卵子と精子それぞれに、すでに約25%、15%の染色体異常があります。そして、受精の時に約8%の異常が生じるので、あわせて約45%の受精卵が異常になります(合計すると48%になるが、精子と卵子が共に異常があるなどの重複ケースがあるため)。

 

図undefined流産と染色体異常undefined図・流産と染色体異常:関沢明彦ら、高齢妊娠と胎児異常,日本医師会雑誌undefined第139巻・第10号,p2081より抜粋

図.流産と染色体異常
流産と染色体異常:関沢明彦ら、高齢妊娠と胎児異常,日本医師会雑誌 第139巻・第10号,p2081より抜粋

染色体異常のある受精卵は着床障害を起こしやすく、約半数(45%の受精卵のうちの20%)が着床せずにそのまま生理となります。着床できるのも約半数。約45%だった染色体異常率は、着床後には約25%となります。このうち、着床はしたけれど胎嚢が見える前に発育がとまるのが、化学的妊娠で、その後の生理用の出血が化学的流産です。

ちなみに、超音波検査で胎嚢が見えてくる染色体異常のある胚芽(全体の15%)は、その後、初期流産、後期流産、子宮内胎児死亡となることがほとんどで、出産まで至るのは、約0.6%です。

化学的妊娠は基本的には医療処置は必要ない

妊娠反応が陽性で、産婦人科を受診して、胎嚢が見えないとき産婦人科医は
  1. まだ初期で胎嚢が見えてこない
  2. 化学的妊娠
  3. 子宮外妊娠
の3パターンを考えます。通常は妊娠4~5週で胎嚢が見えてきますが、現在の妊娠反応は胎嚢が見える前に陽性となるので、下腹痛などがない場合は、通常1~2週後の再診を指示されるでしょう。それでも胎嚢が見えてこない場合は、化学的妊娠か子宮外妊娠を考えます。

妊娠反応は、尿にhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が含まれているかを調べるだけなので、この場合は、定量検査と言って尿中のhCGの量を調べることになるでしょう。通常の妊娠検査薬はhCGが25(IU/L)という単位で陽性になりますが、化学的妊娠では1000(IU/L)をこえることはありません。ですから、定量検査で1000未満であれば、妊娠初期か化学的流産が、もし、1000(IU/L)をこえているのに、子宮内に胎嚢が見えないとなると、子宮外妊娠を考えることになります(関連記事:「妊娠検査薬・妊娠検査」)。

なお、化学的妊娠が考えられる場合は、掻爬手術などの医療処置は基本的に必要ありあません。また、染色体異常というある意味どうしようもない結果なので、化学的妊娠を繰り返すリスクが高まることは通常ありません。また、次回の妊娠に際して、これだけ期間をあけてくださいということもありません。そうした、特別な対策は必要ないのですが、一度経験すると次回の妊娠でも同じ結果になるのではないかと、不安は増してきます。
 

化学的妊娠(流産)は、妊娠(流産)にカウントされない

妊娠検査薬で陽性と出た後に、化学的妊娠(流産)したケースは妊娠(流産)にカウントされない

妊娠検査薬で陽性と出た後に、化学的妊娠(流産)したケースは妊娠(流産)にカウントされない

化学的妊娠(流産)は、着床をしているので定義上は妊娠のはずですが、現在、医学的には妊娠(流産)とカウントしないのが一般的です。これは、化学的流産のほとんどは染色体異常なので、2回以上続けて流産を繰り返す習慣性流産とは関連ないということもあるのでしょう。

生理が遅れ、もしかして?と期待をもって妊娠反応をして、陽性反応が出る。喜んだり、涙したり、なかには戸惑ったり……、それを、化学的妊娠だからといって、単に「これは妊娠ではなかった」と片づけられてしまうのは、本人にとって違和感があることでしょう。程度に差はあるでしょうが、喪失感もあるでしょう。

でも、この段階では、パートナー以外に妊娠のことを話してないことがほとんどなので、湧きあがってくる感情を抑えようとする方がほとんどだと思います。

妊娠反応が出るには、早くても着床後1週間かかります。少なくともその間は生きていたのです。超音波で見えないのは、飛行機の上から、地上にいる僕ら1人ひとりが見えないのと変わりありません。見えないけれど、命はふたりのもとに確実に来てくれていれています。その子は、与えられた命を生ききっている。それでも来てくれた命の意味を感じられるように、過ごしてほしいです。


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