【医師が解説】人工妊娠中絶手術をする前に知っておくべき基礎知識!

妊娠が発覚。産めない場合はどうする?

妊娠が発覚。産めない場合はどうする?

望まぬ妊娠などにより、やむを得ない理由で「産まない」という選択をした場合、事前に知っておくべきことがあります。法的に人工妊娠中絶が可能な時期、同意書の提出や手術の流れ、術後の生活についてなど中絶手術の基礎知識を解説していきます。

【目次】  

人工妊娠中絶が可能な時期はいつまでか?

中絶

中絶可能な時期は決まっている

母体の生命健康を維持することを目的とした「母体保護法」では、赤ちゃんがこの世に生まれて生命を保続することができるボーダーラインを、妊娠22週としています。

現在の日本では、それ以前、つまり妊娠21週6日までの人工妊娠中絶が制限つきで容認されています。妊娠11週までの手術が「初期中絶」妊娠12週~21週までが「中期中絶」と分類されています。
 

中絶の条件は、身体的・経済的な理由、レイプによる妊娠に限られる

身体的または経済的な理由により妊娠の継続や分娩ができない場合、中絶手術を行うことができると法により定められています。

その他、母体保護法には「暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」の記述があり、レイプによる妊娠では相手の同意なく中絶手術を受けることができます。

なお、母体保護法には、赤ちゃんに異常が見つかった場合の「胎児理由」に関しての記載はありませんが、実際は「経済的理由」を建て前に中絶手術が行われています。

なお手術ができるのは医師会が指定する医師「母体保護法指定医」のみで、中絶手術を行っていない病院も多くあります。
 

未成年の中絶は「親の承諾」が必要?

中絶手術をするための年齢制限はありませんが、未成年の場合、手術前に相手の男性と家族の承諾を求められるケースがほとんどです。

母体保護法には、家族の承諾を規定した文言はありませんが、未成年の妊娠の多くが家族の問題と密接につながっているため、病院側は保護者の承諾を求めるのが一般的です。
 

同意書の提出は、未婚の場合や相手が不明でも必要か?

同意書の提出を求められる病院がほとんど

同意書の提出を求められる病院がほとんど

母体保護法14条前文に、「指定医師は、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる」とあります。つまり、現状では既婚者は法的に配偶者の同意が必要となりますが、配偶者のいない未婚者は同意書の必要がないことになります。

ただし、トラブルを避けるため、ほとんどのクリニックでは未婚者にも相手のサインを記載した同意書の提出が求めています。それでも、相手と連絡がつかなかったり、相手が特定ができない場合などでは、その限りではないはずです。ところが実態は必ずしもそうではありません。

2021年5月、公園のトイレで赤ちゃんを出産し、そのまま死なせたとして元看護学生が懲役3年の有罪判決となった悲惨な事件がありました。元看護学生は「(小学校の同級生にあたる)相手男性から中絶の同意書にサインが得られないうちに連絡がとれなくなり、サインがないことで病院に手術を断られているうちに、中絶できる時期を過ぎてしまった」と裁判で証言しました。この場合、法的には同意書はいりませんでした。しかも、相手男性は罪を問われていませんし、病院側も特に追及はされていないようです。

2021年3月、厚生労働省は、既婚でも、夫にドメスティック・バイオレンス(DV)を受けている場合は「配偶者の同意」は不要とする国の方針を明確にし、日本医師会に文書で伝達しました。

ところが、こうした情報は現場に広く周知されているわけではありません。さらに、本人同意のみで手術した結果、夫から脅迫的なクレームを受けたり、訴訟になった例もあり、病院側も慎重になっています。

同意の問題で困ったときは、まずは受診した病院に相談することになりますが、それと同時に行政の妊娠相談ホットラインや、一般社団法人全国妊娠SOSネットワークなどに連絡してもいいでしょう。また、妊娠22週を過ぎると妊娠中絶ができなくなり、子どもを出産することになりますが、自分で育てる、育てられないが決まってない場合でも、特別養子縁組を扱うあっせん団体に相談するといいでしょう。
 

中絶手術費用の目安

人工妊娠中絶手術は、健康保険が適用されず、基本的に全額自己負担となります。費用は、病院による金額差が大きいですが、妊娠11週目までの初期中絶手術であれば、7万円~20万円、妊娠12週目以降の中期中絶は30万円~70万円程度であると見込まれます。なお、中期中絶では「出産手当金・出産一時金」が支払われる場合もあります。詳しくは病院に問い合わせる必要があります。

手術代以外には、手術前後の健診費用、中期中絶であれば胎児の埋葬費用などもかかってきます。詳しくは「人工妊娠中絶手術の費用金額の目安・保険は使える?」を確認ください。
 

妊娠11週までの初期中絶手術の方法

初期中絶手術は全身麻酔で実施

初期中絶手術は全身麻酔で実施

まず、病院の健診で妊娠週数を確認した上で、妊娠継続の意思がない旨を伝え、人工妊娠中絶手術の予約をします。その際、感染症の有無と健康状態を確認するための血液検査を行います。

手術当日は全身麻酔を施すため、飲食は制限されます。

お産の経験のない未産婦は、手術をする前に「ラミナリア」と呼ばれる子宮けい管を広げるための医療器具などを挿入しますが、前日に挿入する病院もあれば、手術の2~3時間前に挿入する病院もあります。

手術は「吸引法」か「掻爬法」で行われ、全身麻酔をしてから5分~15分で完了します。

病院の施設にもよりますが、妊娠11週までの初期中絶であれば、手術後に3~5時間様子を見てから帰宅という病院が多いでしょう。

術後は、感染症防止のために抗生物質が処方されます。
数日~1週間後、病院で子宮の状態を確認し、問題がなければその後病院に行く必要はありません。

▽詳しくはこちらで解説
妊娠中絶手術の方法・掻把法と吸引法、中期中絶の違い
妊娠中絶薬は日本でも使える?リスクと危険性
 

中絶手術で感じる痛み

個人差はありますが、手術前に全身麻酔を施すため基本的には中絶手術中の痛みは少ないでしょう。

しかし、手術前に子宮けい管を広げるための「ラミナリア」を挿入するプロセスで痛みを感じる方もいます。また、手術後、下腹部に子宮収縮の痛みが出る場合もあります。
 

中絶手術後の生活について

手術後、3~7日程度は出血が続きます。翌日は仕事などを含めた予定は入れず、3~4日は激しい運動を控え、できるだけ安静に過ごすよう指示を受けることが多いでしょう。

術後は、感染症を予防するために抗生物質が処方されます。湯ぶねでの入浴は、1週間程度禁じる病院が多いでしょう。

手術後に次回の生理までの期間は、おおよそ1カ月程度。2~3カ月経過しても生理がこない場合、受診しましょう。

▽詳しくはこちらで解説
人工妊娠中絶手術の後遺症・不妊リスク
 

中絶手術後のセックス再開はいつから可能?

避妊

手術後は、コンドームやピルで避妊を

手術後、1週間程度で医師の許可が出れば、”医学的には”再開可能ですが、理由があって妊娠中絶をした直後ですから、必ず避妊をしてください。医療スタッフから避妊法の紹介があることも多いと思います。

次の生理の前、排卵日はいつやってくるかわかりません。中絶後、女性は心と体に少なからず傷を負っていますから、パートナーがいる方はピルやリングの使用も含め、避妊方法についてよく話し合いましょう。
 

中期中絶の時期と手術の方法

妊娠12週から21週の期間に行われる人工中絶手術が「中期中絶」とされています。初期と比較して胎児も子宮のサイズも大きくなっていますから、「分娩」という形式での手術となります。基本的には2泊3日以上の手術となるケースが多いでしょう。

子宮けい管を広げるための「ラミナリア」「ミニメトロ」などの子宮けい管拡張器を挿入した上で、膣内にプレグランディン腟坐剤という子宮収縮剤を投与し、人工的に陣痛を誘発します。その後、赤ちゃんを娩出するという流れになります。

12週を超えたら、中絶であっても流産であっても、自治体の窓口に「死産届」を提出する必要があります。さらに、この時期の中絶や流産は、赤ちゃんを埋葬する必要も出てきます。
 

身体的な理由で中絶手術を受けられない人がいる?

身体的な理由で中絶ができないケースはほとんどありません。逆に、「妊娠を続けると、母体の生命が危険」というケースはごくまれながら、あります。
 

次回の妊娠時や婦人科検診時に、中絶の過去は伝えるべき?

「妊娠回数」と「出産回数」などの過去の妊娠歴は、次回の妊娠時や婦人科検診の際、質問される機会が訪れるでしょう。その際、担当医師に中絶の過去を伝える必要があります。

それは、個人の人柄や家庭の事情を知りたいわけではなく、「妊娠して、お腹の中で赤ちゃんが育っていた」という医学的な情報として必要になるからです。
 

水子供養の必要性について

水子

水子供養は必ずしも必要ないが、希望する場合は行う

最近ではあまり一般的ではなくなってきましたが、死産や流産を経験された方と同様に、中絶を経験した方も水子供養を検討することがあるのではないでしょうか? 必要ではありませんが、希望する場合は行うこともあります。

中絶によって女性は後悔の念や悲しみを背負うことになりますが、水子供養は、それらと向き合うための一つの方法なのかもしれません。胎児との別れにより、傷付いたメンタルをサポートするための昔ながらの日本の慣習ともいえるでしょう。

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